独楽ログ〜こまログ〜

45歳、女性、日本人、がひとりで毎日楽しくすごす方法を検証。

スペイン旅行記 その26 プラド美術館と土曜のグランビア通り

まずはプラドへ!

 

 マリアの家はプラド美術館から徒歩10分という絶好の場所にある。石畳、古い建物、路地、とやはりここもヨーロッパらしい町並みで、ぶらぶらするのが楽しい。

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早く寝たので早く起きてしまったが、例によって店はあまりやっていない。週末だからなおさらのようだ。しかしわずかにやっていたカフェが楽しく、全然期待していなかったクロワッサンサンドもおいしくて、得した気分。いまさらだけれど、スペインというのは、なにを食べても間違いのない、本当に本当に美食の国、なのかしら? と今更思い始める。

 

 部屋のバスルームで、持参した洗面器で洗濯しかけるが、途中でいいかげん面倒くさくなってきて、マリアの洗濯機を借りることにする。しかし私たちが出かけたときには会えなかったので、美術館から帰ったら借りることにする。洗いかけた靴下などの下着は洗面器に洗剤を溶かしてつけおいておく。すぐ洗濯できるよう、バスルームには汚れ物をひとつにまとめておく。

 

 さて、とにもかくにもプラド美術館に行かなければ。調べてみたが、美術館パス的なものもなさそうで、オフシーズンは普通に行って普通に入場券を買えばいいみたいよ?ということで、そのまま行く。15分かそこら並んだだけで買えた。入場券は、普通のものと、2日間入場可能券と、分厚いガイド本つき、がある。値段的にはかなりお得。日本語版もあるので、かなりひかれたけどやめた。今思うとなぜ? なぜ買わなかったのだろう?? 夫は1日券、私は明日も来たいかも、と思い悩んだ末2日間券。これは正しい選択だった。

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 ⇧ああ、ついに…。

 

願いが叶う

 この旅の二大目的は、バルセロナでガウディを観る、マドリードプラド美術館のベラスケスとヒエロニムス・ボスを観る、である。はるばるこれだけの労苦をかけてここまでやってきて、ベラスケスたちがどこぞの美術館に貸し出されるなどしてなかったらどうしよう、というのが最大の悩みだった。美術館にメールで問い合わせたけどもちろん返事なし。あれこれ試したけどなにもわからず、最後は面倒になって、えーい、きっとある、と信じて行ってみよう!と結局なんの確信も得られぬまま旅行をブッキングしてしまったのだ。

 ここまで来てなかったら哀しいなあ…いや前回、パリのルーブルやオルセーで、「これを観たい」というものが、どういうわけ見つけられなくて、かなりがっかりしたのである。「また来ればいいや」というレベルの距離ではない。

 

 プラド美術館は撮影不可なので撮れなかったのだが、結果的に言うと、全部見れた。あっさりと、見れた。(実は1点だけないものがあったのだが、まあよしとしよう)。この美術館はなんだか非常に見やすい。とんでもない量のお宝があるわりにはコンパクトで、NYのメトロポリタンのように“あまりにも広大で、自分がどこにいるのかわからなくて閉所恐怖のような広場恐怖にかかって具合が悪くなる”こともなく、ルーブルのように“とにかく大きすぎて、なんだかすべてどうでもよくなってくる”ということがない。そしてフロアガイドの裏には、絵の写真入りで「観るべきもの」がどこにあるのか、ひと目でわかるよう解説が載っている。ものすごーく便利だ!

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 「ラス・メニーナス」も「キリストの磔刑」も「フェリペ四世の肖像」も「バッカスの勝利」も「ウルカヌスの鍛冶場」も観れた。妖しい色気むんむんのティツィアーノの「軍服姿のフェリペ皇太子」も観れた。ボスのめくるめく異形ワールドも堪能した。こんなに一度に観ていいのだろうか、となんだか罪悪感を覚えるほど、次から次へとすごい絵を観た。

 感無量。願いが完全に叶うっていうのは、中高年になると珍しいから、こんなにパーフェクトに叶えられると、本当に胸がすく。爽快である。

 どの絵も充実感たっぷりで「観た!」感に満ちていたけれど、しかしそれらとは別に、強烈だったのは実はゴヤだった。

 

プラド美術館ね。いいよね。でも行ったらゴヤも観なくちゃいけないよ…」と友達が言っていた。苦しそうな顔をして。その意味がわかった。

マドリード、1808年5月3日」を観た瞬間、頭を強打されたような衝撃。絵を観てこういうたぐいの感覚に襲われたのは初めてだ。この夜にソフィア芸術センターの「ゲルニカ」を観たけど、この感覚は訪れなかった。

 あの絵のなかにいる人たちの顔があまりにもリアルで、本当にすぐ目の前に、今から銃殺される人間がいるように思えたのだ。自動的に涙がだーっと溢れて、これを夫や周囲の人から隠すのに苦労した。ああ、アイメイクが流れる…。いやでも、本当にびっくりした。まぶたが硬直して瞬きができないような気がした。

 

マドリードの繁華街でパニック

 昼過ぎに美術館を出て、午後は自由行動。夫はアパートや近くのスタバで仕事をするというので、私は散歩がてら遠くのデパート、「エル・コルテ・イングレス」まで歩くことにする。

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⇧最初はかわいい店など眺めて楽しんでいた。

 

 実は私も旅行前から持病の腰痛が少しでていて、念のためコルセットをしていたのだけど、この日は疲れがピークだったらしく、ちょっと歩いただけでもう腰が痺れてきて、嫌な予感がした。しかし「まあ、いざとなったらタクシーに乗って帰ればいい」と思い、無謀にてくてくと歩いた。もちろん道は間違えていて、有名なグランビア通りに出れたのはうれしかったが、ここを目指していなかったのであせった。なぜならば、私のiPhoneはすごい勢いでバッテリーを消費していて、帰るまでに息絶えてしまいそうだったからである。とにかくiPhoneには生きていてほしいので、もうこれで地図を見るのはやめにする。しかし、持っていたガイドの地図では、どうにもこうにも現在地がわからない。地図でわかるのはエル・コルテ・イングレスのみ。現在地もマリアの家も不明。今自分がどこにいるのか、そしてどこへ行けばいいのか、皆目見当がつかないという事態に陥っていた。いつのまにか。

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⇧グランビア通りの、この有名な地点にいたころは、まだわかっていたのだが。

 

 そのうちどんどん腰がしびれてきて、5分おきにそこいら(カフェのオープンの席とか、ベンチとか、花壇とか)に座らないと歩けなくなってきてしまった。

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⇧こういうところとか。

 

 初めて観るマドリードの街を堪能しつつ、次第に追い詰められる私。追い詰められると「タクシーに乗ればいいじゃない」という最終手段すら、なんだか意味なく叶わないことのように思えてくる。そう、これは明らかにパニックの予兆…。

 しかもこのとき、土曜の午後。東京と同じで、すごい勢いで人があちこちに溢れ出してきた。うわー。週末の都心なんて絶対出歩かない、と東京では決めてる私が今、スペインの繁華街を、人に洗われて歩いてるよー…と誰に言うでもなく言いながら、ひたすら歩く。腰をおさえて、歩く。ここを歩いてもエル・コルテ・イングレスにはたぶん着かない、とわかってはいたのだが…。

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⇧スペインは難民歓迎なのだ! でもこの建物はなんだろう…。

 

 

  かなり歩いたあと(5,6kmかな?)、通りかかった歴史博物館という建物名を地図上に発見してようやく現在地発見。東に行くべきところを、えんえんと北上していたのだと知る。くー。ここからエル・コルテ・イングレスまでどんだけ歩かなければならないのか…。しかも、そんなにしてまでここに行きたいわけでもない。なにか楽しいお土産があればいいなあという程度なのだ…。しかし半分パニックになりかけている私は、気持ちの融通が全くきかない状態なので、目的変更もできない。買い物客と観光客でごった返すグランビア通りをひたすらに歩く。扇情的な音楽が雑貨屋だのファストファッション店などから流れてきて、心底げんなりし、僻地に行く勇気もないのだが、都会ってどこも同じでつらいわ…と、楽しい旅行に来てるはずなのに考え出したりもする。

 

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 歩けば歩くほど人が増えてくるような気がするのは、私の心が病んでいるからだろうと思っていたのだが、ようやく目的地、エル・コルテ・イングレスに着いたときに、それは間違いじゃなかったのだと気づいた。そう、この日はお祭りだったのだ! しかもどうやらスペインにとって超大事な日、レコンキスタに関するお祭りだったらしい。エル・コルテの前は大きな広場になっていて、ここに様々な仮装をしたグループが行進を待っているのか、待機している。広場から伸びるいくつかの通りは、その様々なグループがパレードしてふさいでいる。彼らも相当な数だったけれど、さらにそれを取り囲む一般人たちもすごい数だ。しかもどんどんどんどん流入してくる。

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⇧本当は写真なんかどうでもいい、という精神状態だったのだけど、のちのちのために!と唱えてなんとか撮る。

 

 最終的に、完全に前も後ろも塞がれて身動き不能になってしまった。うそ。動けない。誰も通してくれない。えー! 嘘、嘘、嘘でしょう!? だめ、だめです! 私、閉所恐怖症なんです! このしびれた腰で! 言葉が一言もわからない外国で! どうしよう、助けてくれ! 

「うわー」と、たぶん声が出てたのではないかと思う。なんとかわずかな隙間を見つけて、それは今歩いてきた道を引き返す=マリアの家からどんどん離れる、ことになるのだが、背に腹は変えられず、とにかく空間を求めて突進、体当たりで道を作る。そのうちどこを歩いてるのかわからなくなったが、それでも少しでも隙間のある方へと向かう。

 あまり明るくない通りへなんとか出て、ホテルがあったので飛び込んでカフェに倒れ込んだ。ホテルなら地図に乗ってるだろうしソファも大きくて柔らかいだろう。

 

 どうにか一息ついて、人心地。お茶を飲み、地図を見て現在地を確認。マリアの家もここらへんのはず、と見当をつける。パニックも通りすぎた。ああ、よかった。本当、危険だった。

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⇧居心地よくて救われたホテル(なのに名前忘れた)のカフェ。やはりおっさんたちが楽しそう。

 

 息を吹き返した私は、また恐ろしい広場に戻り、エル・コルテもちゃんと行って、(でも買い物する元気はなかった。夫の会社用のばらまき菓子だけ買う)、最短距離で帰宅した。それでも結構歩いたけど。

 

 いやほんと、無事帰れてよかった…。

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⇧エルコルテの店内。スペインでは生ハムがラケットのように売られている。