暗闇から暗闇へ
着いたときも真っ暗。移動するときも真っ暗。そして帰るときも、やはり真っ暗だった。なにか後ろめたいことをした人のような気持ちで、こそこそと異国の道をスーツケースをひきずって移動する私たち。
最終日も、朝7時に、宿主のマリアを起こさないよう、静かに家を出た。いろんな事情で仕方なく「真っ暗移動」になったわけだけど、できることなら明るいうちに着きたいし、明るいときに出たいものです…。なんか、とても物悲しい気持ち。
徒歩10分程度だが、スーツケースとともに、だとなかなかしんどい距離をバス停まで移動。しかしマドリードの中心駅、アトーチャ駅から空港まで1本で行けて、料金5ユーロなのだから、かなりお得。13~35分間隔で発車し、なんと24時間運行。所要時間約40分。いろいろと便利すぎる。
バスの名前はエクスプレス アエロプルト です。
しかし例によってバスが苦手な私は、なんとなく落ち着きなく乗り込み、「無事着きますように…」とただ祈る。しかし朝7時なので無事にはつかず、なかなかの渋滞ラッシュにまきこまれ、一時はかなり情緒不安定になるものの、例によって表に出さないよう、必死でこらえる。AVEに乗ったときはかなりいい感じで、不安なんてやってきようもない、くらいの安定感だったのだけどなあ…。やっぱりだめか…。
それでも1時間ちょっとくらいでバラハス空港到着。もうここはとくに書くべき事件も起こらず、スペインのものはいろいろとスタイリッシュだなあ…なんてことを自販機などを見て思いながら、長い時間待つ。
帰りだって、私ひとりだけビジネスクラスなので、私ひとりだけ、豪華なラウンジでぼけっと待つ。ラウンジが広すぎて、なんかこころもとない。ペネロペ・クルースのような強烈なスペイン美女がモップがけをしていたのが印象的だった…。やはり職はたりないのか。
まずは行きはかなりつらかった、アエロフロート欧州近距離線。帰りは予想していたせいか、なんとか切り抜けるけど、食事が不思議だった。前菜はまあよいとしても、このステーキはなんだろうか…。メニューにはサーロインと書いてあるが点。ためしに食べてみるが、この模様のブロック状に肉がほぐれる。つぎはぎステーキなのか?(すいません、肉についてとても無知です) えーと、正直ひどい味でした。付け合せ、デザート、パン、全てが、??という味。でも、これも予想通りなので、こんなものだよね、と了承。
⇧せまい機内…。
⇧すべて、とくに語るべきことなし…。
モスクワ乗り換えで汗だく
で、モスクワに着いた。チケットにはターミナルDに着いて、同じターミナルDから出る、と書いてあったのだけど、たまにこれが狂うらしい。ターミナルDに着いて、ターミナルFから出る、とか。それはモスクワに着いてみないとわからない。
で、私たちは見事これにはまってしまったらしい。しかもぼけっとしていて、途中、私から?夫から?どちらが指示したのかも覚えていないのだが、ぼんやりと列に並んでいた。それが成田行きの機に乗るための列だと信じて…。だいーぶ長いこと待っていたら、ふと夫が、「ねえ、俺らこの列に並んでてほんとにいいの?」と恐ろしいことを言い出す。「えっ?」とあせってあたりを見回すと、堂々と「TRANSIT」のサインと、→が! どうやらここはロシアに入国するための列だったらしいのである。どうりで並んでる人がロシア人ばっかりなわけだ!
「ここじゃないみたい!」と騒いだあとがもう大変。その矢印にしたがってめくら滅法走りまわり、数々の空港職員にチケットを見せて、何処行けばいいのか?と尋ねたり、ボードを見た結果、今自分たちはターミナルDにいて、成田行きはターミナルFから出る予定に変更されていて、そしてDからFへは歩いて15分かかる、と表示されている!ひえー。ぼんやり列に並んでものすごく時間を稼いでしまったため、あと離陸まで10分、とか、本当に切羽つまった状況になってしまう。とにかく重たいバッグを振り回して走る。足をくじいてるはずの夫ものちのちひどいことになるのでは、というほどの痛みを振り切って走る。美しいロシア人のCAさんたちが、「あんたたち、急いで急いで!」と走るジェスチャーをして、いろんな人を制して優先的に道を開けてくれたり、チケットを見て仰天(時間がないから)、いろんな人に連絡してくれたり、と、なかなか…スリリングな疾走でありました…。
そんなこんなで汗びっしょりで機内へ。いやはや危ないところだった…。乗れなかったときのことをあれこれ想像して、また汗をかきつつ、ようやく乗れたひろーい飛行機に安堵する。飛行機に乗って安堵する、というのも私は初めての経験だ…。
行きはとりそこねたアメニティを撮影したり、私を担当するらしい、「glee」のカートのようなかわいいCAに挨拶されたり(本当にかわいかった)しているうちに離陸。
⇧カート。エルオンラインから借りました。
http://www.elle.co.jp/culture/celebcolumn/P-celeb-first-job_13_0403/Chris-Colfer
⇧アメニティ。黒い物体はアイマスク。
なんだか運動したし、安堵してるし、帰りは眠れるかなーと淡い期待を抱きつつ、まずはごはん。モスクワで積む料理なのでなにも期待しない。
↑まずバラ(造花)がカートより配られる…。え? なんだろう…。すごいサービスだなあ。
↑メニュー。
↑アペタイザー。カトラリーがないので、どうやってこのカナッペに、右のジャム的なものをつけたらいいのかとても困る。あれ? でも悪くないな、味…。
↑前菜。これも、なに食べたかメニューを見ないと思い出せないほどなのだけど、なんかおいしい。おかしいな。
↑サラダ。ほくほくのかぼちゃ、まったくけちっていないアーモンドスライス入りで、行き同様やはりおいしい。しかし、マドリード→モスクワ線で食べてしまったので、そもそもあまりおなかすいていないのに、かぼちゃが入って、かなりこたえた。おいしい。かなりおいしい。しかしおなかがいっぱいなのだ…! ああ!
↑メイン。ひらめのハーブ焼き。付け合わせはローストトマトに、たっぷりの黒米! なんかロシアっぽい。これまた、なかなかおいしい。えー、おいしいんだ? へー。…でもしかし、二口食べたらもおなかが限界だった。もう水すらも入らない、というくらい満腹で、これを残すことを、あの天使のようなカートに伝えるのが本当に心苦しくてたまらない。「すっごくおいしいんだけど、どうしても入らない」と伝えると、「いいよ、いいよ、いいんだよ。デザートはどうする? いらない? 大丈夫。お茶は? うん、持ってくるね」という感じで、詫びまくる私を逆になぐさめてくれた。ああ、今思い出しても申し訳なくてたまらない。そして、マドリード線のくずのようなステーキを食べて、これを残すとは…と自分の不覚さ加減に腹をたてる。
一方、夫はエコノミー席でこのようなものを食べていたという。
↑「味………わりとひどかったかなあ」と夫。
とにかく具合が悪くなるほど満腹で、なんとか寝てごまかそうとする。しかし……これが眠れないんだなあ。ほんのすこしうとうとしては、目が覚めてしまう。ポッドキャストの「町山智浩の映画ムダ話」もどんどん進行して、終わってしまったらどうしよう、と気が気でない。そんなふうに悪戦苦闘していると、突然、BOSEノイズキャンセリングヘッドホンから異音が! ピーとかジーとかジジジ…等々、おもわずヘッドホンをかなぐり捨てたくなるような不快な音! えー、機内での平和にはこれが頼りなのにどういうこと!? リセットとかいろいろしてみたけど、結局異音はおさまらず、よって私はますます眠れず。辛いなあ……と眉間にシワを寄せたまま、長い時間をすごすのであった。あーあ。
この異音、あとでいろいろ調べたら、単なる電池切れだったようだ……なんということ。しかも行きの機内で、たしかに私は「これ、電池大丈夫かなあ? 機内で電池切れ、なんてことになったら私死んじゃう」とぼんやり思っていたのだ。そして「スペインについたら電池買っとこう」とすら考えていた。見事に忘れていた。そして見事に予想は現実化した。
教訓です。ヘッドホンの電池は必ず予備を用意するべし。
ろくに眠れないうちに朝ごはんがきた。これ…器に入っているのはパンケーキなんだよね…うーん。確かに小麦で作ったんだろうが…。このプレートはすべていまいちだった。写真もブレまくりですみません。
↑夫のごはん。フォーチューンクッキー? なぜ?
そして成田到着!
帰りもがんばってアクセス成田(バス)に乗って帰宅。うわー、無事帰ってきた…と呆然としていた半日後、親戚が亡くなってしまい、我々は再び荷造りして三重県まで行く…。夫によると「あれも旅行の一部」ということで、この新幹線で激写した富士山がスペイン旅行の最後を締めくくったのでありました。
おじさん、安らかにお眠りください。いつもよくしてくれてありがとう。
おまけ。
↑この旅行のチケット類。ビスケットとチョコレートはマリアが毎日補充してくれて、毎日むしゃむしゃ食べていた。
↑唯一たくさんお金を使った店、バルセロナのナッツ屋さん、CASA GISPERTのナッツ類。マルコナアーモンド、ピーカンナッツ、ピスタチオ、レーズンにいちじく。サフラン。種入のレーズンというものを勧められて食べたけど、本当に種がぷちぷちしておいしかった。
この立派でものすごく甘いレーズンを、どうやってお菓子に使おうか、まだ悩み中。悩みながらつまんじゃって、どんどん減っている。
あとがき(!)
全31回、執筆期間4か月。長々と読んでくださってありがとうございました。
4月すぎた頃になると、正直「もう何も覚えてないっす…」と毎回書く前に思っていたのですが、いざ書いてみて、そして写真も眺めてみると、いろいろ思い出すものですね。自分の脳への信頼が久々に回復しました。一個なにか出てくると、ずるずるといろんなことを思い出す。
「いろいろと忘れないために、とにかく写真を撮りまくろう」と数年前に決めて、旅行では何百枚も撮り、それを旅行後に見てまた旅した気分になる……これをよしとしていたのだが、文章で書き起こしてみると、その再現力は写真の比ではなかった。
書くとこんなに思い出すんだ!
自分でもびっくり。これらのひきずりだされた記憶は、書かなかったらそのまま忘れ去られていたはず。そう思うと、うーん。書いてよかったなあ。別になんの利益を生み出すわけでもないのだが…。なんか気持ちが充実するというか。満たされるというか。みなさんもぜひ、「もう書くことない」「書いてなんなの?」などと思わず、体験したこと、妄想したこと、書いてみましょう。…と、柄にもなくおすすめしたい気分にすらなる。
書いて、思い出して、もう一回旅した気分にもなれる。間違いなく私はスペインに二度行った、と思う。昨年の11月にチケットを買ったときから、この5月まで、実に私は7か月間、この旅を愉しんだということ。なんというか、しゃぶりつくしたというか、もとをとったというか、文字通り骨の髄まで味わった。
これはいい旅のスタイルだなあ、と我ながら自画自賛。あと何回行けるかわからないけど、旅の新定番にしようと思う。