“ただの”塩キャラメルビスケット
また、「ただのクッキー」を作った。粉と砂糖とバターと牛乳(!)だけのレシピで、でも冷凍庫にキャラメルソースが残っていたので、入れてみた。
↑キャラメルのせいか、いつもよりダークなブラウン。塩も多めに入れて、甘じょっぱく、普通で、なつかしくて、極上の味わい。よしよし、成功。
もとのレシピは徳永久美子さんの「パンとお菓子の本」にある「花形ビスケット」。なによりこの田舎っぽい名前が可愛らしくて、たまらない。名前に惹かれて作ったといってもいい。徳永さんは、パリのブランジェリー「ポワラーヌ」のビスケットをイメージして作ったのだとか。「パンを焼いたあとの、熱の落ちたオーブンで焼いたような」、なので「少し硬めの歯ごたえ、焼きムラも少々。粉の味わいは上々」というこの素敵な一文も、焼成欲をかきたてる。
「パン屋のクッキー」だからか、200度で9分、という焼き菓子らしからぬ温度&時間設定だ。何度作ってもこの温度と時間ではうまくできないので、200度9分のあと、160~170度に落としてさらに10分くらい焼く。「まわりがきつね色、中は白っぽい」が、焼き上がりの目安なのだが、私の場合、これだと、どうにも「芯まで焼ききれてない」仕上がりになってしまうので、強引なくらい焼いてがっつりと火を通すのが好み。色は全面濃いきつね色でOK。
果てしない「焼き」の旅
これは本当に好みだと思う。他の方のレシピでも、指示通りの色、温度、時間、見た目、では、自分には「焼き足りない」と思うことが多いのだ。風味は多少とんでもいい、かりっ、さくっ、と極上の食感が欲しい。好みの焼き加減は、ときかれたら「よく焼きで!」。なんなら、焦げたものさえ、わりとおいしいと思ってしまうしなあ…。
昔、どこかのシェフが「なにより難しいのは“焼き”です」と言っていて、「そうなの? そんなに難しいかな?」などと思っていたが、こういう経験を重ねると、つくづくと「焼きって難しい~!」と思う。
そもそも人によって正解が違うのだ。考えて見れば、ステーキだって3種類も焼き加減がある。だから自分の正解を探して、何通りも実験するしかない。表面はがりっと焼けて、でもなかはやや生っぽいほうがいいとか、表面も奥も同じような火通りがいいとか、「焼き方」にも何通りもある。しかも焼き上がり1時間後と、翌日と、3日後はそれぞれ味が変わる。すべての時間帯でおいしいと思える加減を探さなければならない。なかなか途方もない旅である。
バゲット以外もすごかった
このクッキーに関しては、「徹底的に乾燥させる」で私の旅はほぼ終わったのでいいのだが、これがすごくおいしい(と自己申告)もうひとつの理由は、「ラ・トラディション・フランセーズ」という粉を使っているからだ。
バゲットがうまいことで有名なビストロ「VIRON」で使っている粉。いわゆるフランスパン用粉、準強力粉である。最初は私もここのバゲットがどうにも好きで、家でも作ってみたくて粉を買った。バゲットはちっともうまくできないまま日が過ぎていったのだが、あるとき店のデザートの杏タルトを食べて、その台のうまさに衝撃を受けた。えー、なんでこんなにおいしいの!? ネットや本でいろいろ調べたら、「パンだけでなく菓子もこの粉で焼いている」という一文を発見。うちでもタルトや焼き菓子にこの粉を使うようになった。…なんだろう、味が濃い、としか言いようがないのだが、味が濃くて、しみじみとおいしさが舌に残るのだ。
たまに普通の薄力粉のほうがいいなと思うものもあるが、だいたいの焼き菓子はおいしくできる。なかでもパート・シュクレ(タルトに使うクッキー生地)や、この花形ビスケット、ショートブレッドなんかは本当においしくできる。はっきり言って高い粉なのだが、「まあ、洋服買うよりは安い」と呪文を唱えて----この10年、なにか高いものを買うときはいつもこれを唱える----購入する。
↑買うときはいつも大阪の「粉やの息子」さんで。安い。めっちゃ、いろんな粉がある。送料も安い。…が、その理由。「グリストミル」が1kg単位で変えたらあとはもう文句なし、なのだが……。
↑昔、四苦八苦して構成を考えた栗のタルト。中も栗を茹でて生クリームと少量の砂糖であえたペーストを絞り、台とペーストの合間にはアクセントのラズベリージャムをしき、さらに苦闘を重ねて作った渋皮煮をのせ、キャラメリゼしたナッツをちらした、ぜいぜいはあはあ菓子。もういっぺん食べたいのだが、面倒すぎてもう作れない…。
ちなみに、ラ・トラでのバゲット作りは、いまだに成功していません。
どうあがいても、たとえどんなに素敵なルックスに焼きあがっても、割って食べれば
落胆あるのみ。気泡みっちりのパンしかできないんです…。