モンジュイックの丘へ
午後は再び夫と、モンジュイックの丘にあるジョアン・ミロ美術館へ。普通はこの丘へはフニクラ(ケーブルカー)で行くのだが、スペイン広場からバスが出ているというので、それに乗り、えっちらおっちら山を登る。
美術館に入場するとき、バルセロナカード(交通機関や美術館が無料になったり割引になったりする有料パス)で無料だと思っていたら、2日間パスでは2割引にしかならない、と知らされ、つまりこのあと行こうと思っていたカタルーニャ美術館も無料ではなく2割引なわけで、かなりショックを受けつつ入場。
バルセロナカードとは、3,4、5日間のことをさすのであって、2日間券はバルセロナカードエクスプレスであって、別物である。
という大事な認識を得る。
丘の上にあるこの美術館は広々と、そして真っ白な、気持ちよい空間。かなりリゾート気分に浸れる。
学校で見学に来ていたらしい子供たちと遭遇、日本人が珍しいのか、一斉に振り返ってざわざわしだし、「コンニチハ」「コニチハ」と誰もかれもが言い始めて、頭を下げたり両手を合わせたりする。子供たちがとてもうれしそうなので、なぜ?と思いつつ、こっちもうれしくなり、こんにちは! さようなら!と挨拶。
⇧でか……。原画を描いたミロよりも、これを編んだタペストリー作家(名前失念)の作業時間を思って目の前が…。
その後寒風に吹かれまくりながら(結構つらい)、丘を徒歩で降り、カタルーニャ美術館のとんでもなく大きな外観を眺めたりしながら、ホテルへ。
名物バル、cal pepへいざ
「観光客だらけの、いわゆる有名店だが、しかし味も素晴らしい」とバルセロナウォーカーで断言していたので、ぜひ行こうと決めていたバルが、cal pep。夜は7時からだが、開店前に並んで必ず最初の回で入店できるようにしなければ、あとはその最初の客たちが食べ終わるのを外で待ち続けなければならないという。バスに乗って、ずいぶん早く出る。夜はなおさら寒い。1分だって外で待つなんてしたくない、という真冬の夜である。そして夫は負傷している…。
用心しすぎて開店30分前についてしまった。シャッターは降りて、周囲には誰もおらず、「休み!」と狼狽。がーん。こんなとこまで来たのに…。名物のトルティーヤ、食べたかったのに…。と思っていたが、「いや、店のなか、灯りついてるよ?」と夫。「これから開くんじゃないの?」 そうか…そうかもしれない。だけど店の周りには人っ子ひとりいないけどなあ…。「開店前から行列」なんて嘘じゃないか…。ほぼ諦めつつ、周囲のスニーカー屋や洋服屋などに出たり入ったり眺めたりして、時間をつぶす。ここも旧市街でとても雰囲気のよいところだけど、いかんせん寒すぎる。
開店10分前。もし店がこれから営業するのなら、並んだほうがいいということで、誰もいなくて恥ずかしいけど、並んでみる。そしたら、それを合図にしたかのように、人がどこからともなく集まってきた! なんだこれは。
⇧並んでたら、おっさんが出てきて開店しはじめた。
来るのがあと数分遅れたら、列の後ろになってた。ひゃあ~、危ない危ない。ほどなくして店のシャッターがあいた。中ではたくさんのおっさんたちが、がしがしと料理をしたり支度をしていた。休みではなかったのだ。
無事、カウンターの一番はじに座れる。「とにかく黙ってこれを頼んでいればいい」とバルセロナウォーカーに書いてあった、ししとうの素揚げ、あさりの蒸し煮(かな?)、トルティーヤを頼む。カウンターは開店直後にもうぎっしり、で人気店ならではの活気。ああよかった。無事来れて。無事座れて。
で、料理が来た。写真と同じ。おいしい。おいしいけど、普通においしいというか……。衝撃がなかったというか…。つまりいうと、「まあまあ」だったというか…。バルセロナウォーカーの、見事な説得力の文章で、この店のこのメニューがいかにおいしいか、二度三度と繰り返し読んできただけにちょっと拍子抜け。これが、疲れ切って、どこに入っていいかわからず、もうはずしてもいいよ、とにかく座ろうよおなかすいたよ、なんて状況でのことだったら、たぶん「うわあ、おいしい」とかなり満足したのだと思うけど、とにかくハードル上げて来てしまったもので、「……あれ?」感が強かった。
しかも4皿目、おすすめされて頼んだカルパッチョが全然やってこず、なのに、それらしい皿がずっとおっさんたちの後ろに放置されていて、「あれは私たちのではないのか?」「なぜ出さないのか?」「なにを待っているのだ?」「我々はすでとうにすべての皿を片付け終えているのに?」と疑心暗鬼でぱんぱんになり、結局、とくになんのきっかけもなく、ふとおっさんがその放置された皿を私たちに差し出してきて終了したのだが……なぜあんなにためていたのかいまもってまったく不明。
⇧やっときたカルパッチョ。まあ、おいしい。普通に…。
これが、食事よりも酒を重んじるカップルだったら問題なかったのだと思う。逆に「あんまりさっさと料理を出されると、追い立てられているようで嫌」とすら、思うかもしれない。けれど、私たちは、「料理はできたてを、すぐに食べなければいけない」という価値観で一致した夫婦であり、どんな食事でも、皿が来たらヨーイドンでとりかかり、だいたい20分で食べ終わってしまうスピードカップルだったのだ。おしゃべりに夢中で来た皿が半分しか食べられずにそのまま放置、などという状況が許せないカップル。ディナータイムに2時間用意されても、40分ですべてを終えて、時間をもてあましてしまうカップル。くつろぐのは、完全に食べ終えてからでいい、まずは食べ終えなければ、と信じているカップル。
そんな私たちに、あの謎のアイドルタイムはなかなかの衝撃だった。足の痛みと、思ったほど味に満足できなかったことで軽く不機嫌になり始めた夫に、けれど隣のイギリス人夫婦が話しかけてきて、「夫はオックスフォードの数学の教授で、しょっちゅう研究会でここに来るのよ、私は子供が3人いてね…」などの話を聞いて、ちょっとなごんだのはありがたかったが。人なつっこくてかわいいおばさまだった。「とってもいい街なの」と何度も語っていたオックスフォードの街を想像したりした。
まあだからとにかく、
料理のハードルを上げすぎると不幸
というのが、cal pepで学んだことなのでした。