独楽ログ〜こまログ〜

50代、女性、日本人、がひとりで毎日楽しくすごす方法を検証、実践、そして記録。

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外に出るとおもしろいことに会えるものだなあ 渋谷篇

「潜入者」を観に、渋谷へ

  珍しく外出モードなのは、やっぱり5月のさわやかさのせいだろうか? まだ腰が治りきっていないのにもかかわらず、ブライアン・クランストンの主演作が公開されて我慢できずに渋谷ヒューマントラストシネマへ(すごい名前の映画館だよね…と夫)。

 「潜入者」という、囮捜査官の命がけの潜入捜査を描くクライム・サスペンス。できれば近寄りたくない渋谷に、無理して出かけたわりには「トランボ」ほどは面白くなく…いや、おもしろかったが期待が高すぎたか…、若干フラストレーションを抱えつつ、めったに来ない渋谷をぐるりと見渡す。

 

たまには渋谷でお茶を飲もう

 なにしろパルコがないし、あの店もなければこんな店はできたんだ?と浦島太郎な感じ。でもやっぱり再開発なのだろうか。取り壊しのビルが妙に目につく。はやく去ろうと思いつつ、めったに来ないしなあ…と迷っていたら、すぐ目の前に「cafe Mame-Hico カフェ マメヒコ」の看板が。

“一目置かれている店”“一度行くべき店”としてよく名前のあがる店である。確か昔「行きたいなあ…でも渋谷と三軒茶屋か……」と諦めていた店である。

 二度と来ないかもしれないので、入ってみることにした。さくっと事前調査したら、「珈琲1杯880円、ハムエッグやら特製のパンやらを頼んだら軽く2400円くらいして、驚き。でもその価値はあるクォリティ」的なことが書いてある。要はすっごく高くて、おいしいらしい。どうしたんだろう、そういう店、最近はまったく参加しなくなったのだが、この日はなぜか払ってもいい気になっていた。

 ビルの二階に入ったら、ものすごく高い天井にシックなインテリア、贅沢なカフェだなあ、と驚く。公園通りでこの広さ(高さも面積も)、家賃はいくらだろう? ながーい大テーブルが、薄暗い店内にあり、そのテーブルに置かれた客同士の目隠し替わり(?)にもなる大きな花瓶に大きな花、いかにも天然木、などっしりしたテーブル、壁を囲む棚…ものすごく趣味がよくてものすごくお金のかかってそうな…。これは「居心地」だけを求めるお客さんがいてもおかしくないかも、という空間である。なるほど、珈琲1杯880円かかるかもね…。

  が、メニューが来たら、いろいろある珈琲は420~560円とか、そんな価格帯であった。しかし、かわりに席料がかかるという。時間によって値段がかわる。朝から夜にかけてだんだん値段があがる。昼は200円だった。…なんかすごい難しい店なんだなあ…とめんどくさくなりかけるが、席料足しても1杯600円程度だし、他のデザートやフードも良心的…というか、安いくらいの価格帯なので、まあいいや、と思う。それにしても、価格をあげるのはよくあるけど、下げる、しかも半額近くまで下げるっていうのは…なんかすごいなあ。

  マメヒコというだけあって、日本の「豆」にこだわる店らしく、「豆かん」がある。あんこ入り、アイスのせ、いろんな種類があり、その全ての素材にたくさんのこだわりが書いてある。豆はどこどこ産で、こんなふうに煮ていて、アイスはどこどこの牛乳を使い…等々。「うーん。めんどくさい…」

  基本的にどちらかというと私も相当めんどくさいタイプで、あれはここのメーカーじゃないと、とか、作り方はこれがコツなの、とか言い立てがちではあるのだが、なんだろうこれも年のせいか? ほぼすべてのメニューにびっしりとこだわりが書いてあって、なんかもうどうでもよくなってきてしまう…。この説明の文章が「僕が好きなのは~」「僕が選んできた~」「これは僕が発見した味で~」という体裁で、「僕って誰?」という意地の悪い疑問がよぎりつづけていたのも、めんどくささに拍車をかけていたのだと思う。

 それでも豆かんは大と小があり、小はなんと250円で、しかも皿の半径は14cmくらい、というので、それはお得なのでは?と思って注文する。

 

⇧で、来た。なかなかきれいなおやつである。奥の写真は店内の様子。珈琲も想像以上に大きなマグで来た。

 浅煎り、深入り、超深入りの3種あって深入りを頼んだのだが、ひとくち飲んだら、浅煎りにしたっけ?というくらいあっさりさっぱり。でも薄いわけではない。いい意味で麦茶のような…などと思いながらごくごく飲む。ごくごく飲んでしまう珈琲なのだ。

 豆かんは、寒天はやわらかすぎて好みとは違っていたけれど、豆はおいしい。やわらかさ加減、豆自体のうまみ、それから甘み。どれもちょうどいい。あんこは、普通にうまい(すっごくおいしいあんこ、ってちょっとやそっとでは作れない)。ふーん、と思いながらまた珈琲を飲む。そしたら、一口目より二口目のほうが俄然おいしくなってて、驚く。そういう珈琲って、飲んだことなかったので。あら、これはすごいかも、と思いつつ、入り口に雑誌があったのでひまつぶしに取りにいく。

 

特濃な「僕」の世界、「M-HICO 」 

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 それは「MーHIKO」といううすーい雑誌であった。雑誌というか、フリーペーパー? いや700円もするから(かつてはフリーだったらしい)、冊子、かな。これまでに何冊も発行されているらしく、バックナンバーの数がすごい。でも表紙はほとんど同じ男の人である。この人が「僕」=オーナーなのだろう。

  偶然1号目を手に取った。2006年、けっこう前だ。長生きしている店なのだなあ。表紙、でかでかと「僕」が。裏には、井川啓央氏の名前が。編集、執筆、写真、つまりぜんぶ、みたいなクレジット。中に、雑務係井川が、オーナーにインタビュー、という巻頭記事。井川氏はオーナーの熱烈なファンかなにかなのだろうか…と思いつつ読み進めると、なんのことはない、この井川氏がオーナーらしいのだ。つまり全部自分で手がけてこれを作り、自分で自分にインタビューまでしているのだ。そしてこの表紙。こ、濃い…。そのあまりの「僕」の濃度にめまいがした。

 おそらく超有名人なので、昨日彼を知った私が説明するのも野暮なのだが、いちおうここで知ったことを書くと、

 この「僕=井川氏」は、もとフリーのテレビマンだという。なるほど、マスコミの人か…なんか妙に納得。しかし、テレビマンだった男がなぜカフェをやろうと思ったか等、そのいきさつはおもしろく読ませていただく。すごく簡単にまとめてしまうと、ちゃんとお客さんを喜ばせることのできる仕事がしたくなった、ということなのだが。

 嫌いな言葉は器用貧乏、というほど、やることなすこと、平均以上にできてしまう、でもどれもつきつめないという性格だと言う。ふむふむ。最近あまりにも個性を主張したカフェが多すぎることに疑問を持つとも。店は脇役でいいのだ、と。ふーん?? 「お前が言うなって感じですけど」。うん。ほんとに。でもこういうバランス感覚だから、趣味がいいけどいやらしくはない、ぎりぎりのラインを保てるのかもしれない。そして飲食店ははじめてすぐに後悔した、とも。「ずーっと追われてるような感覚」があるという…。そうだよね…。毎日お店を開けるって、きっとそういうことよね…。

 

 この店はNYのブレッドカフェ「ル・パン・コティディアン」をイメージしてできたという。だから大きなテーブルがあるのだそうだ。私もこのお店の、まさしく大きなテーブルがどーんとある感じが大好きだったので、読んでうれしくなる。

なので、ソルト&ペッパーミルは、この店と同じものなのだそうな。塩が出にくい不完全な商品らしいのだが、あえて替えない。「出ないんですけど」「そう、これ出ないんですよね」と客と店員が一緒になって四苦八苦したりするのもいいし、ある外国人客は、ふたを開けてみんなで塩をわけあっていて、それが微笑ましい姿だった、とか、そんなことがいいと思ってる、と。日本の感覚だと、こんな不良品はすぐに取り替える、だけれど、細かいことにこだわりすぎるのは日本人のよくないところ、と思って、あえてそのままにしてる。

 へーえ、なんかおもしろいなあ…。

 と思ってテーブルを見渡すと、

 

全然違うミルがおいてあって笑ってしまった。

まあ、かなり長い時間たってるから、なんらかの理由で変わったのでしょうね。

 

 とにかく癖の強い人だ、ということはよくわかった。「僕」を押し出すことに屈託がないというか、「こんな男、嫌ですよね」と笑いながらなおも押す、というか…。でもこういう鬱陶しいほど個性的な人が、楽しく行きていける時代なのかもなあ、いまって、と思う。ITを駆使して自分をアピールして、興味のある人だけ集めて、世界を作ればいい。別に「一般的に」受け入れられなくても、「わかりやすく無難なもの」を作らなくても、充分に生きていけるのだ。そしてそれは、驚くほど安上がりにできてしまう。

 これは「平均からはずれた人間」にはものすごい朗報である。

 外に出ると、おもしろいことにあえるものだなあ、と改めて。

 

 おもしろい人に会って、こちらも多少エネルギーが湧いたのか? 腰が痛いけれど、代々木八幡方面まで歩くことにする。

NHKを眺めながら歩くと突如、代々木公園が異世界のように現れる交差点、これがけっこう好き。

⇧その手前には、巨大な美しいギボウシのあるグリーンショップ。

あちこちの新緑が目に気持ちよくて、バスに乗らずまだ歩くことにする。

続く…。

 

おまけ。

 帰宅後、彼についてぐぐってみたら、すごい情報が山のように出てきた。

www.alphapolis.co.jp

ここでは、その驚きと創意工夫に満ちた井川氏の半生が読める。フリーペーパー作って自分で自分に取材してるなんて、序の口であった。この人は別にITが発達してない時代でも、一仕事やる人であった…。

 しかも今は映画も作ってる。もちろん製作監督脚本、全部井川氏。いったいどこからこんなエネルギーが湧いてくるのだろう。

 先週、20年くらい髪を切ってもらっている美容師さんが、夜12時に寝て4時に起きる生活を、ごくフツーにしていることを知って衝撃を受けていたのだが、そしていつでも「41 歳くらい」に見える彼が51歳であること、そして体力の減退を感じたことが「いまのところない」ということなどにも、目を見開いて驚いたのだけど、なんかあのときの衝撃に似たショックに襲われる。すごいなあ。私は8時半に寝ないと4時には起きれないし、なんならときには5時すぎまで寝てたりするし、とくに立ち仕事はしてないが、40歳すぎたら毎朝体力が減ってる気がするし、見た目は年齢相応だ。どれだけ人生損してるのか…。

 と、考えたところで、こうゆう思考がもっとも自分を腐らせると最近知ったので、やめてみる。ないものねだりはいいことないからね。