今度はクアラルンプールへ
ペナン島からクアラルンプールへ向かう。前回はほうほうのていで陸路でペナンから本土、バタワース駅までたどりついたところで終わった。
バタワースからクアラルンプールは約350km。なかなかの距離である。これをなぜ鉄道で行こうと思ったのかというと、前回書いた通りマレー鉄道の評判が良かったこと、新しい景色が見たかったこと、そして途中のイポーに寄りたかったからである。実現しなかったけど。もやしと温泉が有名な、マレーシア第二の都市イポー。いつか行きたい。
マレー鉄道のススメ

安価で快適で速いマレー鉄道。ビジネスクラスだって、数千円でクアラルンプールまで連れてってくれる。350kmを。すごい。


なにしろパニック発作と大渋滞、それにまつわる時間競争を経てのことなので、座席についたときの安堵感といったらなかった。特急電車だって閉じ込められることにはかわりないので全然好きじゃないのだが、このときはうれしかった。

しばらくしたらさらに弁当が出た!

しかし食べるとうまいっていうのがアジア飯の偉大なところ
シャングリ・ラ クアラルンプールに着いた
クアラルンプールもシャングリ・ラ。去年まではシャングリ・ラを信頼していた。この旅でいろいろ不信感が募ったので、よい関係は解消してしまったが…。まあ、ホテルグループなんてそんなもんだよな…と今は穏やかに受け入れている。たぶん最高の、つまり客側にやたらと都合のよい、やたらとお得なホテルグループなんてないのだ、というのが今の気持ち。


金ピカなホテルである。そして大きくて広い。ここに着くまでに大変だった。クアラルンプール駅で降りるか、手前のKLセントラル駅で降りるか迷った末、より近代的で中心的な(ハブっぽい)KLで降りたのだが、これが大失敗だった。ホテルは明らかに昔ながらの、そして今はあんまり賑わってないクアラルンプール駅のほうが近かったのに、Grabが来やすいのではと考えてKLで降りた。なにかと便利だろうと。だが大失敗で、Grab乗り場にたどり着くのに、この巨大な駅というより空港みたいな場所を、でかいスーツケースをひきずりながら文字通り右往左往。朝からペナンでの大渋滞、3時間半の鉄道などを経て限界に達していた中高年の体力は、もうひときれも残っていなかったのに…。
とにかくGrabが近くに来てくれない。「あっちならいいのかも」とか「こっちでは?」と、スマホを睨み徘徊していたら、私よりもさらに夫のほうが疲れ切ってしまい、殺気を感じるほどの不機嫌になって、ここでも年齢を感じる。彼は老いている……。私より疲れるなんて、昔はなかった。だがここ数年、真面目にトレーニングして鍛えている私と、散歩と体操以外はなにもしていない彼とではいろいろ逆転しているのかもしれない。彼のほうがだいぶ重いスーツケースをひきずって、さらにGrab手配をひとりで行っていたのも原因だろう。そして感情コントロールが得意なはずの彼が、疲労のためにここまで不機嫌になるのも、感慨深い。いつものように「戦場でもっともつらいのは疲労。疲労しきっていると殺人でもなんでもやれる」というとある映画評論家の言葉を思い出す。疲労、なめちゃあかんのだよね…。昔から意味不明に疲れやすかった私(ADHDだかららしい)、疲れたときの「人生もうどうでもいい」な感じがよくわかるので、理性そのもののような彼も、ついに疲労に飲み込まれたのだ。海外旅行もいつまでできるかわからない。なにしろ疲れるのが海外旅行なのだ。
まあともかく、どうにかこうにか部屋に着いて、クローズ寸前で誰もいなかったラウンジに行き、スナックも食べ物もないが、ソフトドリンクは出してくれるという。オレンジジュースがおいしすぎて3杯飲んだら元気になった。私は。彼はたぶん、お酒飲んでお風呂入って寝てようやく回復したと思う。

メインライトをつけずにサイドライトなどで対応した。
「レモンガーデン カフェ」で旅行のメインイベント、朝ご飯

朝食会場。ゴージャス、というんでもないが、きれいなファミレスみたいでこういう空間好きです。広々として、自分がいてもいなくても誰も気にしない感じがよい。ゴージャスかつ小さい空間だと長居しづらい。去年行ったバンヤンツリーはまさにそうだった。味は確かに段違いでおいしかったし素敵な場所だったが、気楽さはなく、漫画に集中できなかった…。そもそもここで漫画読んでていいのか、という疑問が湧き続けるし…。
ビュッフェはもちろん、東南アジアのホテルの基本をおさえたもの。つまり、マレーシア、インド、中国、日本、韓国、そして欧米。すべてが味わえる。高レベルで。これはほんとすごいと思う。
…とはいえ、たいした量は食べられないんだけどね。所詮中年なので。いかにすこーしずつ、いろいろ食べるか、が勝負。


ナシ・カンダールはマレーシアのインドカレー盛り合わせプレート。2,3種のカレー、ごはん、肉(ここにはない)、野菜料理(カレー味)が載ってて最終的に混ぜて食べる。一度食べるとはまります。
一通り食べ終わると読書タイム。まだまだ空いてるので遠慮せず長居。

夫に盗み撮りされていた。

いやー、すごい話だった…。連載も16年かかったらしいが、自分もそのくらいかけて読んだのでなおさら大河感がすごい。最初に読んでぶっ飛んだのが十年以上前、そのときは8巻くらいで、その後「完結したら読もう」と放置していたら何年も経ってしまい、すでに完結していると聞いて去年「今度こそ読もう」と旅行に持参、一から読み直した。「うおおお…」と思ったが帰国したら残りを読むのがもったいなくて来年の旅行にとっておくことに。夫からは「よく我慢できるな…」と呆れられたが、こらえたのだ。
で、今年(2024年だけど)、また同じように朝食のときに読みふけって、ついに19巻までたどりついた。ここシャングリ・ラ・クアラルンプールのレモンキッチンで。
徳川幕府の話なんだから当たり前ちゃあ当たり前なのだが、大政奉還まで描いちゃうのか、とまずそこで驚き、女将軍のまんま西郷どんだの勝海舟だの登場させて無血開城まで、そして開国後までも迫真のリアルさで描いてしまうの、これが力技でなくてなんなのか。しかも歴史ドラマでありつつ、すさまじい人間ドラマでもあった。キャラに血が通ってて、いちいち各人の人生に思いをはせてしまう。強い人、弱い人、正義の人、卑怯な人、そしてそれら全部少しずつ持ってる人…いろいろいたなあ。300年弱、見てきたんだものなあ…。
漫画を読んで号泣するの、久しぶり。書いてたら、またやりたくなった。一巻から読み直してあの感動をもう一度、外国のホテルの優雅な朝食会場で味わいたい……いやだからね。そういう「あの感動をもう一回」は無理なんだって。感動も一期一会なのよね。新しい喜びを探さなければ。
↓ここで創作のプロセスがのぞけてとても興味深い。
ていうか、こんな本も出ていたとは…何も知らない自分。図書館で借りたのだけど、これは買わなければ、と思い直してすぐ返却した。
とりあえずペトロナスタワー、行く
で、ようやくレモンガーデンから出て、散歩に行く。とりあえずはペトロナスタワーへ。

なんでここに来たかったのかというと、カフェ「BACHA」に来たかったからである。読みはバシャ、なのかな。マレー在住の元パティシエの人が「ここのケーキは一度は食べるべき」とブログに書いていて、この人はかなり辛口なので、その彼女が「まず食え」というのだから…と。

もちろん選べない
”モロッコ発祥の高級コーヒー”ってことなのだけど、要はTWGと同じで、シンガポールの目ざとい人が目をつけて契約し、アジアのあちこちに高級カフェとして展開してる、と、そういうことらしい。TWG、かつてはアジアを旅行する日本人のほぼすべてがここの紙袋を下げて帰国してた、っていうほどのパワーがあったらしいのだが、今はBACHAになった。どこかで読んだ。実際日本人(たぶん)のリッチそうなおじさん(三十代後半くらい)が、店頭で大きな紙袋2~3つ、爆買いしていた。「お土産としていばれる」ものなのね。「喜ばれる」というより「いばれる」もの。これらを知ってだいぶテンションが下がったが…。でもまあいい、素敵な店であることには変わりない。




これ全部飲んだら夜は絶対眠れないだろう
値段も、ばかじゃないの? と思わず口にしてしまうほど高いのだが、旅行中だと気にしないよね…。でも実際レモンタルトもクロワッサンも、相当おいしかった。お土産渡すような人はいないのでなにも買わなかったが、まあ、買いたくなる気持ちはわかる。パッケージかわいいし。2025年日本上陸、銀座に、とずっと言われてるけど、どうなってるのだろう。最近いろんな計画が中止になってるので、そういう感じなのかな。
クアラルンプールって、ちょっと西新宿っぽい

高層ビル群が立ち並ぶエリアはちょっと西新宿に似てる。違うのは街路樹の多さとその樹高の高さ。惚れ惚れするような大木がずらりと並んでいて、濃い緑の葉がわさわさと揺れていて良い眺めだ。めちゃ気持ちいい。このあたりは別におもしろそうな店がずらり、とか、人で溢れて喧騒が、とかではない。西新宿みたい。でも歩いているととても気持ちがいい。
ラウンジからの眺めも最高

いやなにがいいって、ホテルのラウンジの窓際席からの眺めがよい。高層ビル、道路それをとりまくジャングルのような木々。ここに来るのが毎回楽しみだった。クーラーが効きすぎて寒いという欠点はあったものの…。ほんと、アジアに旅行するときはぶあついカーディガンが必要である。駅、モール、ホテル、空港、とにかく寒い。
カクテルアワー

ホテルに戻ってジムで運動し、プールで泳ぎ、ジャグジーに浸かり、夕方になるとラウンジのカクテルアワーへ。ずらりとおつまみが並び、もちろんこれでお腹いっぱいになる。明るいうちから来て、眺めを楽しみつつ読書。でもこれで一日終わってしまうので、街歩きするならラウンジはつけなくてよいよな…。おつまみでおなかいっぱいになるのに外に食べに出るのもなんだか理不尽な気がしてしまうから。しかし今回も移住視察のための旅行でもあり現地の仕事関係の人にもいろいろ会うから終日ホテルに居続けることもできない。今回はもともとラウンジがついている部屋だったけど、次回からはいらないのだろうか。悩ましい。ホテルにいたいのか街に出たいのか、目的によるのだろう。
堀田善衛『ゴヤ』

村上龍は脱落し、吉田豪は読了したので、今度はこれ。ブログのどこかで書いた気もするが、去年から堀田善衛ブームが来ている。本作は全4巻。ゴヤについてそんなに書くことが? と思ったが、ゴヤのことはもちろん、当時のスペインという国および周辺外国について緻密に書いてあるので、それは確かにこれくら紙数いるだろう、とそういう本である。
王家についての話はいろんな本で読めるが、庶民の暮らしについてはなかなか知る機会がない。この本は実にリアルにそれを教えてくれる。そもそも歴史の本って、時々退屈で読めないことがあるのだが、大河ドラマとか歴史ロマンだの、要するに人を中心にして描いたものはいきなり頭に入りやすくなって、年号も事件自然と覚えてしまうということがある。この本もそんな感じで、野心家のゴヤがいかにして宮廷に入りこもうとしたか、入った後はどう立ち回ったのか、それがいかにして反体制になったのか、そもそもこの人はどういう人なのか……などを時代背景とともに詳細に教えてくれる。むちゃくちゃおもしろい。むちゃくちゃおもしろいのだが、実はそれに気づいたのは帰国後だった。最初はゴヤのゴの字も出てこず、ひたすら彼の育ったスペインの荒野について描かれていて、スペインという土地が実は岩だらけで何も育たない不毛な地ばかりの場所なのだということはわかって、へー、とは思ったが、あんまり面白くなくてなかなか読み進めなかった。旅行中はずっとそんなだったので、帰国してからがぜん面白くなったので、なんだか損したような気分。あと、これを読んでからスペイン旅行すればよかった、とつくづく。10年前の話なんで悔いても意味ないが。
続く…