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独楽ログ〜こまログ〜

45歳、女性、日本人、がひとりで毎日楽しくすごす方法を検証。

外に出るとおもしろいことにあえるものだなあ    代々木八幡篇

「鼻の通るパン屋」ルヴァン

 渋谷からNHKを抜けて富ヶ谷交差点までてくてく歩く。「腐る経済」の著者、渡邉さんが「ここに勤めたら(小麦アレルギーと思われた)鼻のぐずぐずが治った」というパン屋さん、「ルヴァン」に行くためである。

 「ルヴァン」と言えば、天然酵母パンの草分け。パン好きには超有名店だが、そういえばここのパン、食べたことなかったといまさら思って、近いうち行こうと決めていたのだ。

 

 ここの店主の甲田幹夫氏はパン焼き人であり、思想家でもある…と言っていいほど、生き方に芯のある人である。パン焼きという仕事も、彼がはじめて出会った「矛盾のない仕事」だったから(以下のインタビューから引用してます)。焼き損じたパンも、昨日のパンも、捨てない。値引きして売る。自分と他者をわけない。味よりも人のほうが大事…等々、正直、私のような汚れた人間には縁遠い店かもなあと思っていたのも事実だ。ただ、「パンを捨てない」という考えにはものすごく共感していたのだけど。

 

005. ルヴァンの甲田幹夫さん | パンラボ

 

捨てるべきか、捨てざるべきか

 私が数年勤めていたカフェは、老舗の有名店ということもあって、ものすごく厳格で完璧なおもてなしをする店だった。すごくいい材料を仕入れて、ちょっとでも不安要素があれば、どんどん廃棄する、お客様にはつねに最上のものを、という姿勢だった。

 私は客としてもその店が大好きだったから、そんなバックヤードを見て、「さすがだなあ、これが日本の理想の客商売だなあ」などと思っていたのだが、同時に、毎日大量に出るロスを見て、「もったいなさすぎる…」とも思っていた。「品切れを出すくらいなら、ロスにしたほうがいい」という考えだから、暇そうなときでもがんがん仕込む。そしてあまる。飽きが来ないようメニュー替えもしょっちゅう行う。だから切り替えのときがくると前のメニューの食材がこれまた大量にロスる。

 レストランなんかでは、あまった食材で「本日のスープ」を作るなどアレンジがきくけれど、なにしろ大きい組織なので現場の判断でメニューを作る、変えるなんて考えられない。だからロスる。どういうわけか、サンドイッチ用、トースト用のパンは角食ではなく、ともに丸、および楕円形だったため、スライスすると左右に大量に小さな切れ端が出る。それも全部ロス。使用食材(原材料も店で作ったものも)は菌検査に出し、決められた日数(だいたい2~3日。ジャムですら、7日)が過ぎたらロス。それは当たり前だけれど、つい検査に出しそびれた食材というのもあって、そういうものは念のため、すべて2日で廃棄。どれだけ火を通しても、見た目が変わらなくても、廃棄。もちろん、見た目が崩れたもの、イレギュラーなものも、がっつり廃棄。

 

 食べ物は人の命に関わるものだし、ここは夢を与える店なのだから、本当はこれほど厳格じゃないといけないのだなあと感心していた。学生時代にアルバイトした飲食店なんかは「もうここのものは食べるまい」と決心するような店ばっかりだった。していたけど、「もったいないよなあ」ともいつも思っていた。ロスの食品は従業員が持ち帰ることができるのだけど、あれもこれも使えるから、と山のような荷物を作って持ち帰るのは私だけだった。みんなが私のように意地汚くなかった、ということなのだが、それ以前にみんなだいたい、食べることにそこまで興味がない、もしくは、毎日猛烈に働いていて、持ち帰った食材であれこれ料理するなんていう余裕がそもそもないようだった。

 そんなこんなで、飲食店をやるってことは、食べ物を作ることでもあるけど、同時に同じくらい捨てることでもあるのかも? と思っていた。こんなに流行っている店でも、これだけ廃棄しているのだから、普通の店だったらもっと捨てるのかも、と…。私に、そんな仕事できるのかな?と。実際、あの厳格な店にいると、すぐ「もったいない」とか「持って帰ります」と言う私は、単なる不衛生で非厳格な、強欲人間のように思えて、いつも気恥ずかしい思いをしていた。

 

 

 そんなわけで、「決して捨てない」(これは「料理通信」2017年6月号より)「ルヴァン」のようなパン屋さんは、私には光明に思えたし、最近広島の「ドリアン」のような“捨てないパン屋”が新たな潮流になっているというのは、ちょっとした感動でもあった。そう、大企業は無理でも、個人店なら、ちゃんと安全に配慮しながらも「捨てない店」を作ることは可能なのだ。

www.asahi.com

 

「いつかお店をやるために」という理由で「自分が好きな店の、裏側を見てみたい」というのが、この店に勤めた理由だった。だが、同じ飲食店でも、大きな店と小さな店ではいろんなことが違う、しかも根本が違う、ということが、ここで学んだことだった。

 

シンプルなのに斬新な玄米キッシュ

 そんな万感(?)の思いを抱えて来た。「ルヴァン」は店に入る前から、もう「捨てない」店であった。

 

大量のダンボールがたたんで置いてある。「ご自由にお持ち帰りください」だ。上のフリーボックスには、家庭の不用品をいれてください、とある。使いたい人がいるだろうから、ということだろう。片側の店頭では、エコライフ関連のフライヤーがたくさん。

店内には「昨日焼き」のパンが2割引で。その他、「捨てない」「もう一度使う」「とことん使う」「みんなで使う」のエネルギーが充満している、なんか熱気がすごい店であった。まあいわゆる「エコ&オーガニックな店」だね、と言ってもいいのだけど、なんというかこの店はそこいらのエコショップとは熱量が違う。なぜならば、あまりにもエコな店って(上記のようなことを言いながらも)、私は結構引いてしまうのだが、あまりにも徹底していて、なんの拒否感もわかなかったのである。「わかりました…そこまでのお覚悟がおありならば、わたくしもお受けいたしましょう」と、戦国時代風に受け止めてしま店であった。

 

 店内にはパンのいい香りと、いろんなものが雑然とあふれている。そのせいか妙に味の濃いパンが食べたくなり、ライ麦パン(正式名は忘れました…)と玉ねぎパイを買う。店員さんがおすすめしていた「ルバーブのパイ」は、色味全然なし、そのあまりにも地味なルックスに軽く驚く。しかし、この店は別にこれでいいのだ。と思うと、逆においしそうに見えてくるから不思議。そういえばネットで誰かが「ここの玄米キッシュにはまって一時期毎日通っていた」と書いてたな…。でも今日はないのかしら。

 

 隣にはカフェ「ル・シァレ」が併設されている。

「ル・シァレって『山小屋』という意味なんだけどね。
山小屋は、泊まりたいという人を決して拒否しちゃいけないんだよね。
拒否したら死ぬということだから。
だから、どんなに人数があふれかえっても、とにかくみんなで詰めて詰めて山小屋に泊まって。
食べ物がなかったり装備がなかったら、みんなで貸してさ、暖をとって、一夜を過ごす。

 

 

…というところからついた名前なのだそうな。なるほど…すべての人を受け入れる店。なんか深いなあ。芯があるなあ。芯がある人はなにをやっても、芯が垣間見えるなあ。

 …ということは、家に帰ってぐぐって知ったことなので、このときは、かわいらしい小屋だなあと思いながら席につく。椅子がものすごくぐらぐらしていたので、席を変える。常連さんらしき女性はすぐに去って、客は私ひとり。

 

 

 トイレに行くと、こだわりのトイレットペーパーを1巻80円で売っていて、どこまでも徹底していることを確認。ちなみにトイレのドアハンドルもぐらんぐらんで、すぐにとれてしまいそうだったが、いいのだ。この店はこれで…。

  オーダーは「玄米キッシュプレート」。さっき店で見れなかったので、気になっていたらしい。あまり深く考えず、卵と牛乳のアパレイユに野菜や玄米がちらしてあるのかなくらいに考えていたのだが、実際は違った。

 

 想像とかなり違うものが来た。玄米ぎっしり。アパレイユどころか、ただおにぎりを詰め込んだようにも見える。上にチーズ。なんかすごい。プレートにはさらにレーズンパンまでついて、わけあって糖質オフ生活を続けていた私は、糖質解除した身の上とはいえ、「なんという炭水化物量だ…」と思わずひきつつ、口にいれる。

 う、うまい! 

 想像よりもかなりうまい! 「はまって毎日買いにいく」、なるほどわかる! ごはんが妙に香ばしくて、ほんのり甘くて、これにチーズ、パイ生地が合わさると絶妙にあう。なんだこれは…。見た目も斬新だけど、味もすごいな。ちょっと感動。

 それでデザートがわりにこの甘いレーズンパンを食べるということね…ああ、こちらも、もちっとしてうまいなあ。「味より人」と言いつつ、こんなにうまいんだから素晴らしいなあ。

 

「あのー、ごはんがキッシュに入ってるって、珍しいですね」

 好奇心がおさえきれず、お姉さんに尋ねる。お客さんが他にいなかったし、誰でも受け入れる山小屋というだけあって、なんだかお姉さんも空間も、すごく話しかけやすい雰囲気なのだ。お姉さんは「そうですよね。これ、ほぼごはんですものね」と笑う。

「おいしいですねえ…」

「おいしいですよね。ちょっとドリアみたいで」

「あのー、どうしてごはんを入れようと思われたんでしょうか」

 さらに質問。いや、私には思いつかないなあ、キッシュにごはんをぎっしり詰めようってのは…。

「どうしてでしょうねえ? うち、まかないはごはんなんですよね。それがあまって入れてみようかってなったんだったかな…?? 違ったかな? まああとは、日本人だし、ごはん食べようよ、っていうのもありますよね」

「黒米とかいろんなお米が…」

「そう、雑穀いろいろいれて」

「ごはんがなんだか、すごく甘くて香ばしいんですが…」

「あ、それはね、玉ねぎと人参で炒めてるからなんですよ。ごはんだけじゃないんです」

 なるほど、そのごはんにチーズが合わさって、ドリアっぽい味になるのか。いやでもさらにパイ生地も合わさると、本当になんともすごいハーモニー。構造と素材はかなりシンプル。でも発想がとても斬新。そしてすごくうまい。これは理想の食べ物かもしれないなあ。

 しかし、これ全部食べるのは罪深いだろう、そしてこの斬新な品を夫にも食べさせたいし、と思った私は1/3残してペーパーに包み、さっき買ったパンの袋に入れて持ち帰ることにする。

 

 

⇧おいてあった「暮らしの手帖」の記事によると、オーナー甲田さんは、ふんどしをしているらしい。芯のある人は……。

 

  帰りは代々木八幡に寄って帰ることにする。神社好きの私のなかで、ここはかなりの高ポイントスポットである。神社の特徴である木々の“鬱蒼ぶり”が、とてもよいのである。中に入ると薄暗く、ひんやりとして、空気が清浄だ。

 教会が内部に宇宙を描こうとしたのなら、神社はその森を使って宇宙を表現しているのではないだろうか。勝手に思ってるだけだけど、そこがとても好き。お寺だとちょっと整然としすぎていることが多いが、神社は適度に適当で、何事もやりすぎず、自然にまかせている感じがよいのだ。

 

 

 しかも、ここにはなぜか竪穴式住居もある………。不思議だ……。

 

 すっかり体内の気が入れ替わったような気になって、帰宅。

 帰宅したとたん、夫へあげるはずのキッシュの残りを、むしゃむしゃと食べてしまう。…がまんできなかった。冷めてもやはりうまかった。

 

 翌日、買ったライ麦パンにたらこ&サワークリーム(よしながふみの漫画『きのう何食べた?』に載ってた)をつけて食べた。

 

 

 

 

 

 

外に出るとおもしろいことに会えるものだなあ 渋谷篇

「潜入者」を観に、渋谷へ

  珍しく外出モードなのは、やっぱり5月のさわやかさのせいだろうか? まだ腰が治りきっていないのにもかかわらず、ブライアン・クランストンの主演作が公開されて我慢できずに渋谷ヒューマントラストシネマへ(すごい名前の映画館だよね…と夫)。

 「潜入者」という、囮捜査官の命がけの潜入捜査を描くクライム・サスペンス。できれば近寄りたくない渋谷に、無理して出かけたわりには「トランボ」ほどは面白くなく…いや、おもしろかったが期待が高すぎたか…、若干フラストレーションを抱えつつ、めったに来ない渋谷をぐるりと見渡す。

 

たまには渋谷でお茶を飲もう

 なにしろパルコがないし、あの店もなければこんな店はできたんだ?と浦島太郎な感じ。でもやっぱり再開発なのだろうか。取り壊しのビルが妙に目につく。はやく去ろうと思いつつ、めったに来ないしなあ…と迷っていたら、すぐ目の前に「cafe Mame-Hico カフェ マメヒコ」の看板が。

“一目置かれている店”“一度行くべき店”としてよく名前のあがる店である。確か昔「行きたいなあ…でも渋谷と三軒茶屋か……」と諦めていた店である。

 二度と来ないかもしれないので、入ってみることにした。さくっと事前調査したら、「珈琲1杯880円、ハムエッグやら特製のパンやらを頼んだら軽く2400円くらいして、驚き。でもその価値はあるクォリティ」的なことが書いてある。要はすっごく高くて、おいしいらしい。どうしたんだろう、そういう店、最近はまったく参加しなくなったのだが、この日はなぜか払ってもいい気になっていた。

 ビルの二階に入ったら、ものすごく高い天井にシックなインテリア、贅沢なカフェだなあ、と驚く。公園通りでこの広さ(高さも面積も)、家賃はいくらだろう? ながーい大テーブルが、薄暗い店内にあり、そのテーブルに置かれた客同士の目隠し替わり(?)にもなる大きな花瓶に大きな花、いかにも天然木、などっしりしたテーブル、壁を囲む棚…ものすごく趣味がよくてものすごくお金のかかってそうな…。これは「居心地」だけを求めるお客さんがいてもおかしくないかも、という空間である。なるほど、珈琲1杯880円かかるかもね…。

  が、メニューが来たら、いろいろある珈琲は420~560円とか、そんな価格帯であった。しかし、かわりに席料がかかるという。時間によって値段がかわる。朝から夜にかけてだんだん値段があがる。昼は200円だった。…なんかすごい難しい店なんだなあ…とめんどくさくなりかけるが、席料足しても1杯600円程度だし、他のデザートやフードも良心的…というか、安いくらいの価格帯なので、まあいいや、と思う。それにしても、価格をあげるのはよくあるけど、下げる、しかも半額近くまで下げるっていうのは…なんかすごいなあ。

  マメヒコというだけあって、日本の「豆」にこだわる店らしく、「豆かん」がある。あんこ入り、アイスのせ、いろんな種類があり、その全ての素材にたくさんのこだわりが書いてある。豆はどこどこ産で、こんなふうに煮ていて、アイスはどこどこの牛乳を使い…等々。「うーん。めんどくさい…」

  基本的にどちらかというと私も相当めんどくさいタイプで、あれはここのメーカーじゃないと、とか、作り方はこれがコツなの、とか言い立てがちではあるのだが、なんだろうこれも年のせいか? ほぼすべてのメニューにびっしりとこだわりが書いてあって、なんかもうどうでもよくなってきてしまう…。この説明の文章が「僕が好きなのは~」「僕が選んできた~」「これは僕が発見した味で~」という体裁で、「僕って誰?」という意地の悪い疑問がよぎりつづけていたのも、めんどくささに拍車をかけていたのだと思う。

 それでも豆かんは大と小があり、小はなんと250円で、しかも皿の半径は14cmくらい、というので、それはお得なのでは?と思って注文する。

 

⇧で、来た。なかなかきれいなおやつである。奥の写真は店内の様子。珈琲も想像以上に大きなマグで来た。

 浅煎り、深入り、超深入りの3種あって深入りを頼んだのだが、ひとくち飲んだら、浅煎りにしたっけ?というくらいあっさりさっぱり。でも薄いわけではない。いい意味で麦茶のような…などと思いながらごくごく飲む。ごくごく飲んでしまう珈琲なのだ。

 豆かんは、寒天はやわらかすぎて好みとは違っていたけれど、豆はおいしい。やわらかさ加減、豆自体のうまみ、それから甘み。どれもちょうどいい。あんこは、普通にうまい(すっごくおいしいあんこ、ってちょっとやそっとでは作れない)。ふーん、と思いながらまた珈琲を飲む。そしたら、一口目より二口目のほうが俄然おいしくなってて、驚く。そういう珈琲って、飲んだことなかったので。あら、これはすごいかも、と思いつつ、入り口に雑誌があったのでひまつぶしに取りにいく。

 

特濃な「僕」の世界、「M-HICO 」 

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 それは「MーHIKO」といううすーい雑誌であった。雑誌というか、フリーペーパー? いや700円もするから(かつてはフリーだったらしい)、冊子、かな。これまでに何冊も発行されているらしく、バックナンバーの数がすごい。でも表紙はほとんど同じ男の人である。この人が「僕」=オーナーなのだろう。

  偶然1号目を手に取った。2006年、けっこう前だ。長生きしている店なのだなあ。表紙、でかでかと「僕」が。裏には、井川啓央氏の名前が。編集、執筆、写真、つまりぜんぶ、みたいなクレジット。中に、雑務係井川が、オーナーにインタビュー、という巻頭記事。井川氏はオーナーの熱烈なファンかなにかなのだろうか…と思いつつ読み進めると、なんのことはない、この井川氏がオーナーらしいのだ。つまり全部自分で手がけてこれを作り、自分で自分にインタビューまでしているのだ。そしてこの表紙。こ、濃い…。そのあまりの「僕」の濃度にめまいがした。

 おそらく超有名人なので、昨日彼を知った私が説明するのも野暮なのだが、いちおうここで知ったことを書くと、

 この「僕=井川氏」は、もとフリーのテレビマンだという。なるほど、マスコミの人か…なんか妙に納得。しかし、テレビマンだった男がなぜカフェをやろうと思ったか等、そのいきさつはおもしろく読ませていただく。すごく簡単にまとめてしまうと、ちゃんとお客さんを喜ばせることのできる仕事がしたくなった、ということなのだが。

 嫌いな言葉は器用貧乏、というほど、やることなすこと、平均以上にできてしまう、でもどれもつきつめないという性格だと言う。ふむふむ。最近あまりにも個性を主張したカフェが多すぎることに疑問を持つとも。店は脇役でいいのだ、と。ふーん?? 「お前が言うなって感じですけど」。うん。ほんとに。でもこういうバランス感覚だから、趣味がいいけどいやらしくはない、ぎりぎりのラインを保てるのかもしれない。そして飲食店ははじめてすぐに後悔した、とも。「ずーっと追われてるような感覚」があるという…。そうだよね…。毎日お店を開けるって、きっとそういうことよね…。

 

 この店はNYのブレッドカフェ「ル・パン・コティディアン」をイメージしてできたという。だから大きなテーブルがあるのだそうだ。私もこのお店の、まさしく大きなテーブルがどーんとある感じが大好きだったので、読んでうれしくなる。

なので、ソルト&ペッパーミルは、この店と同じものなのだそうな。塩が出にくい不完全な商品らしいのだが、あえて替えない。「出ないんですけど」「そう、これ出ないんですよね」と客と店員が一緒になって四苦八苦したりするのもいいし、ある外国人客は、ふたを開けてみんなで塩をわけあっていて、それが微笑ましい姿だった、とか、そんなことがいいと思ってる、と。日本の感覚だと、こんな不良品はすぐに取り替える、だけれど、細かいことにこだわりすぎるのは日本人のよくないところ、と思って、あえてそのままにしてる。

 へーえ、なんかおもしろいなあ…。

 と思ってテーブルを見渡すと、

 

全然違うミルがおいてあって笑ってしまった。

まあ、かなり長い時間たってるから、なんらかの理由で変わったのでしょうね。

 

 とにかく癖の強い人だ、ということはよくわかった。「僕」を押し出すことに屈託がないというか、「こんな男、嫌ですよね」と笑いながらなおも押す、というか…。でもこういう鬱陶しいほど個性的な人が、楽しく行きていける時代なのかもなあ、いまって、と思う。ITを駆使して自分をアピールして、興味のある人だけ集めて、世界を作ればいい。別に「一般的に」受け入れられなくても、「わかりやすく無難なもの」を作らなくても、充分に生きていけるのだ。そしてそれは、驚くほど安上がりにできてしまう。

 これは「平均からはずれた人間」にはものすごい朗報である。

 外に出ると、おもしろいことにあえるものだなあ、と改めて。

 

 おもしろい人に会って、こちらも多少エネルギーが湧いたのか? 腰が痛いけれど、代々木八幡方面まで歩くことにする。

NHKを眺めながら歩くと突如、代々木公園が異世界のように現れる交差点、これがけっこう好き。

⇧その手前には、巨大な美しいギボウシのあるグリーンショップ。

あちこちの新緑が目に気持ちよくて、バスに乗らずまだ歩くことにする。

続く…。

 

おまけ。

 帰宅後、彼についてぐぐってみたら、すごい情報が山のように出てきた。

www.alphapolis.co.jp

ここでは、その驚きと創意工夫に満ちた井川氏の半生が読める。フリーペーパー作って自分で自分に取材してるなんて、序の口であった。この人は別にITが発達してない時代でも、一仕事やる人であった…。

 しかも今は映画も作ってる。もちろん製作監督脚本、全部井川氏。いったいどこからこんなエネルギーが湧いてくるのだろう。

 先週、20年くらい髪を切ってもらっている美容師さんが、夜12時に寝て4時に起きる生活を、ごくフツーにしていることを知って衝撃を受けていたのだが、そしていつでも「41 歳くらい」に見える彼が51歳であること、そして体力の減退を感じたことが「いまのところない」ということなどにも、目を見開いて驚いたのだけど、なんかあのときの衝撃に似たショックに襲われる。すごいなあ。私は8時半に寝ないと4時には起きれないし、なんならときには5時すぎまで寝てたりするし、とくに立ち仕事はしてないが、40歳すぎたら毎朝体力が減ってる気がするし、見た目は年齢相応だ。どれだけ人生損してるのか…。

 と、考えたところで、こうゆう思考がもっとも自分を腐らせると最近知ったので、やめてみる。ないものねだりはいいことないからね。

 

 

 

大久保カレー&スパイス散歩

スパイシーカレー魯珈に行ってみた

 

 大久保はスパイスを買うため、たまーに行くのですが、しばらく行かないうちに、カレーの大人気店ができてたらしい。みんなが動く週末はじっと我慢し、月曜になったのででかけてみる。ついでに、治りかけの腰には歩くのがいちばんよい気がするので、散歩も兼ねて。

 

 カレーの店は「スパイシーカレー 魯珈(ろか)」。東京駅のおいしいカレー店、「エリック・サウス」に7年いたという女性がひとりでやっている店らしい。そこで修行したカレーと、さらに彼女が愛してやまない魯肉飯(ルウロウハン・台湾の豚バラ煮込みかけごはん)の両方が食べれるという……個人店って、好き勝手やれて本当にいいなあ。

 昨年12月にオープンしたら、立て続けにテレビ取材が来たらしく、あっという間に大人気店に。おかげで月曜の昼でも並ばなければならない…。

 

 

 小さな小さな店で、ほそーいカウンターにぎゅっと並んで食べる。この狭さでは店内撮影は不可能だ。なかなかかわいい店なのだけど…。

 

 へそ曲がりだからなのか、名物魯肉飯&カレーが一緒に食べれる魯珈プレートではなく、カレー二種盛りにしてしまった。ちょっと後悔…。でも魯肉飯とカレーがけんかしそうな気がしてしまったのだ。ああ、でも両隣の人がともにプレートを食べていて、うう、味が知りたい…と激しく後悔。

 

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 2種のカレー、私は一押しというラムカレ(左)ーと本日のカレー、カリ・サピ。インドネシアの牛肉カレーだそうな。これはグリーンカレーのようだった。ココナッツミルクの味がした気がしたが、キャンドルナッツでこくをだした、と書いてある。おいしい。ラムカレーはスパイシーですっぱくて、どんぴしゃり、私の好み。玉ねぎのアチャールを大量に一緒に食べると、なおすっぱ辛くて、おいしい。なるほどー。人気店になるだけあるなあ。

 

 店の外にはずらずら人が並び、店内はぎっしり人が座ってて、それをたったひとりで女の人が切り盛りしている。カレーを用意し、客と会話し、電話に出てテイクアウトの注文を受け、カレーをサーブし、会計をし、テーブルを片付ける。これらを急いでるふうもなく、しかし猛スピードで、笑顔でやっている。これはすごい技なのではないだろうか?

 

 この愛のフライヤーを読めばよくわかると思うのだが、このオーナーさん、かわいらしくて情熱的、驚くほど感じのよい人である。人は、ここまで感じよく人をもてなせるものだろうか?と文語的に疑念を呈してしまうほど、完璧で素晴らしい接客。明るい、元気、気配りあり。お客さんも彼女と話すのが楽しくてたまらないようだ。カレーの話とか大久保という場所についての話とか、いろんな人とずっと会話している。ものすごい空腹でやってきた私は、さらに20分外で待ったあとだけに、「ああ……そうやってあなたが店主に話しかけると、私のカレーを作る時間が……」とまた狭量な考えを抱きながら、じっとカレーが来るのを待っていたのであるが…。

  チャイやラッシーも飲みたかったのだが、全然まったくここでくつろぐという雰囲気ではないため、諦める。

 

 おなかいっぱいでふうふう言いながら、新大久保のスパイスエリアへ向かう。新大久保駅の手前、マツモトキヨシの脇の道を左(向かって新大久保駅の場合)に曲がると、インド&イスラムエリア。大久保自体がかなり異国雰囲気満載の場所だが、なかでもこのストリートのエキゾチックさときたら…。家の近くにこんな場所があるなんて、本当に不思議だ。

 

「スパイス料理をいろいろしてみたい。でもスパイスってあれこれ揃えると高いよねえ」と思いながらググっていたら、大久保で買えばめっちゃ安いという情報を得たのである。このエリアには何軒もインド&イスラム食材屋があって、見比べるのも楽しい。

 

↑歩いてると最初に現れる店。

 

⇧ブレまくりでも、この店の野放途な感じは伝わると思う。

 

 この店の何に注目すべきかというと、とても日本とは思えない店内の荒れ具合である…。鳩とか平気で入り込んでるし。整理整頓という言葉、たぶん店主および店員は見たことも聞いたこともないのであろう…と思われる、異国チックな乱雑さ。でもおもしろい。店員さんはぎょろっとした目つきが本当に怖い。私が店内を長い間あるきまわっていても、何も言わない。けれど、いざ会計すると、にこっと笑って、「これでヨロシですか」と言ったりするのだ。なんだ……いい人なのか…。店に出入りするのはすべて外国人で、彼らと外国語で喋り続けているから、日本語なんて必要なさそうなのだが、ちゃんと「ヨロシですか」などというオモテナシ用語をマスターしている。

 

 何回か通ってわかったのは、この店にかぎらず、みんな店でうろうろする私に、決して声はかけないということである。どれだけ「なにか探してそう」な顔をしていても、どれだけ彼が暇でも、決して声はかけない。おそろしい目つきで、ただなにかを睨んで黙っている。もしくは、仲間と話し込んでいる。だが、こちらが声をかけると、喜んで話し出す(なんだかどこぞの国でも同じだった気が…)。笑顔もどんどん出る。日本語は、日常会話はもちろん接客用語もマスター。…というのが、彼らの基本姿勢らしい。

 

 二軒目はここ。「JANNAT」。

ここはきれいなのである。店主が几帳面なのだろう。一軒目で「本場感」を味わったあと、「でもいくら本場っぽくても私は日本仕様に慣れてるからつらいなあ…」と心が折れかける、しかしこの店が現れてほっとする、というのを、来るたびに繰り返していることに気づいた。

 

↑スパイス、豆類、調味料類がずらりと並んで楽しい。

 

↑発酵コーンの粉、とか…。なにを作るものなのだろう?

 

↑食品屋には必ず電話が売ってる。異国の地での(まあ異国じゃなくても、だけど)まず最初に必要なもの、ということなのだろうか。そしてだいたい数人たむろして、おしゃべりしている。

 

 広い、きれい、明るい。そしてなによりうれしいのが、スパイスを小分けにして売ってくれているところだ。たぶん、通常売ってる300、400、500gくらいの箱入りスパイスを、この店でいちいち開封して小分けにしているのだろうと思う。

 

↑こんなふうに。だいたい普通のスーパーの1/3くらいの値段で買えます。

 

 この店のお兄さんも、仁王のような顔で黙っていた。だが、私がレジに品物を持っていき、「お願いします」というと、にこーっと笑って、「はあい!」と言った。そして、「これ、2つ種類あるけど、これでいい?」と聞いてきた。チリパウダーが2種類あるらしいのだ。見た目はまったく同じ、赤いパウダー状。

「これ、ガーナ産でスーパースーパーホット!ね。いい?」

「え、だめだめだめ、そこまでホットじゃなくていい」

「じゃ、こっちでいいよ、きっと。こっちはインド産ね。あっちは350円だけど、こっちは200円」

「へー。見た目全く同じなのに…」

「僕たちも辛い好き、だけどこれはだめね、もうほーんのちょっと入れても、もうすごいね、辛くて辛くて辛くて」

「そうなんだ…こわい…教えてもらってよかった。ガーナの人は辛いのが好きなのね」

「そう。一度辛いの食べちゃうと、慣れちゃうからね」

「物足りなくなるのね」

「あとね、いつも辛いものに食べてる人はね、辛くないもの食べるとおなか壊しちゃうね」

「えーっ、そうなの!?」

「そうね。壊しちゃう」

 

 基本、人と交際しないのだが、店の人とあとくされない話をするのは大好きなのであった…。クリーニングのおばちゃんとか…。そのおかげでなんだかえらい有益な話が聞けた。

 気が大きくなった私は、「写真撮ってもいいですか?」とまで聞いた。勇気を出して。ふだん絶対そんなこと聞けないのに…。そしたら「いいよーいいよー、もうどんどん撮って!と両手を広げた……。なんか感動。これぞ“心が開けてる”人なのかも。「あ、お兄さんも撮っていい?」とさらに食い込むと、もっと笑顔になって「えーっ、いいよ! どうぞ!」。

 

↑みよ、このフルスイングな笑顔。今書いてても、なんだかほろりとしてしまいそうなほど、ナイスなお兄ちゃんだった。

 ↑これだけ買った。クミン、コリアンダーマスタードシードターメリック、そしてチリパウダー。ムングダール(緑豆)。ムングダールをのぞき、全部で2千円しなかったと思う。家に着いて荷物をあけたらいい香り!

 

 その後、大久保での第二の使命、業務スーパーへ。ラップ放浪の旅を続けていた私は、最終的にここの「プロ好みのラップ」がベスト、だと結論を下したのである。だから買い込まないと。

 切れにくい、密着感あり、100Mで大容量。これを使うと、サランラップとか、すぐ切れるからやってられないです。100均のラップは無添加かもしれないけど、ただのビニールだし…。すべての100円ラップがそうではないのだが。

 しかしこの間仕事したベテラン料理研究家の先生は、「結局サランラップが一番よね」と言っていて、私はなにも答えられなかった…。ここで争うのはよくないと思った…。人の好みっていろいろだなあ、と強く思ったので、ラップを使うたびに先生の顔を思い出す。

 

 ともかく、私はこの「プロ好みのラップ」が好きなので、業務スーパーの前を通りかかったら必ず買わなければいけないのである。家の近所にはない。

 

↑しかし、レジがものすごい列だった…。この人たち全員、レジに並ぶ人らです。果ての果てまで人の頭が見える。ここいらの飲食店従業員が大集合してる感じ。みんな買い物の量がものすごいから。

 

 なんとか買い終えたあと、腰をいたわってすぐ電車に乗るか、西新宿まで歩くか悩むが、歩くのが好きなので無理して歩いてみる。新大久保~西新宿まで、ごみごみした住宅街をちまちま抜けていき、ふと大通りに出ると高層ビルが!というのが結構楽しいのである。

 

 西新宿のタリーズでようやくお茶の時間。午後1時すぎ、昼寝しているサラリーマンがたくさんいて、いろいろ思う。それでなくてもこのへんを歩くと、ほぼ全員会社員で、非会社員でない私はいろいろともの思うのである。

 昔、先輩フリーライターが、「銀座とか歩くと、自分以外は全員カタギに見えて、なんか居心地悪いのよね」と言っていた。自由奔放に全力で自由業を謳歌しているような人だったので、そんなこと思うんだあと意外だった。つまり、「できれば会社員になりたかったな」と思ったりするってことだよねえ…と。私の場合、安定して働ける会社員に対する憧れ、尊敬、僻み妬みそねみ、がないわけではないのだが、こういう勤め人天国のような場所を歩いても、とくに気が滅入るわけではない。ただ、みんな毎日ここに通って働いてるんだなあ……としみじみ思うだけである。帰りはこういうとこで飲むんだろうなあ…とか。私とは全然違う生活送ってるんだなあ。毎日、なにを楽しみに暮らしているのかなあ、とか。

 

 こんなに西新宿について書くなら、高層ビル写真の一枚でも撮るべきだった。後悔。

次回行ったら撮って、アップしよう。

 

 

それって小麦アレルギーじゃないのかもよ?

いつ発症するのか!?

 

「数々の人々が店を辞めていったよ」

 と、かつてちょこっとパン屋でバイトしてたときに、焼き担当の女の子が言っていた。なんの話かというと、小麦アレルギーの話。

「パン屋で働くと結構な数の人が小麦アレルギーになっちゃうんだよね」

 子供の頃からアトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎&鼻炎、たまにぜんそく、と闘い続けている、自他共認めるアレルギー人間なのだが、小麦アレルギーについてはほとんど考えたことがなかったので、驚いた。パン屋に務めると、少なくない人間が小麦アレルギーになってしまう……衝撃。それじゃあ、あたしなんて真っ先に…。

 

 と、思っていた数年後。この間もせっせとパンをこねお菓子を焼いてきたのだけど、あるときから、パンを仕込むと、猛烈に首がかゆくなり、くしゃみがとまらなくなった。

「来た…ついに来た」。

 いつかパンとお菓子の店が開きたいと考えていたので、小麦アレルギーになったらその計画は白紙、と怯えていたけれど、ついに宣告されてしまった。パンを仕込むたびに、これではたまったものではない、というかゆみとくしゃみが出る。仕方がないから、マスクをして、タートルネックを着るか、スカーフを首元に巻いて、調理用極薄手袋をして仕込むことにした。いちおうこれでしのげるので、計画は白紙なわけではないが、でも基本的にアレルギーって、原因物質に触れれば触れるほどひどくなる。店など始めて、大量に小麦粉とたわむれたら、猛烈に悪化するかもしれない…どうしたらいいんだ…そしたら小麦を使わない定食屋に変えようか?

 

 などと思いつつ、数年。最近は、キタノカオリで食パンばかり焼いていたのだけど、「そういえば、この粉のときはくしゃみでないなあ」と思っていた。

 

田舎のパン屋さんが小麦アレルギーについて教えてくれた

 で、そんなときにこの本を読んだ。

「腐る経済」 渡邉格著 講談社 

  副題は“田舎のパン屋がみつけた”。自力で見つけた麹菌でパンを焼いて田舎で売ってる著者が考える、理想的な経済の回し方を提案しつつ、彼自身の生き方を綴った本である。前々から読みたかったのだけど、古本で安くなるまで待ってたら、ずいぶん時間が立ってしまった。なにしろ大人気で、ちっとも安くならなかったのだ。…と、改めて書き出すと、自分のみみっちさに驚く。定価と古本の値段の差って、数百円だから…。

 

 私の狭量さはおいといて、とにかく人気なだけあって、すごくおもしろい本だった。30歳くらいまで完全な負け犬人生を歩み、一念発起してパン屋を始めたと思ったら、麹菌まで、普通の店のようにどこかから仕入れるのでなく自力で作りたいと、カビを生やして食べてみて(!)…という命がけの実験して理想の菌を見つける…という過程もすごくパワフルだし、グローバル社会になって、食材が世界中の思惑でどんどん値上がりしてしまうことに対抗すること、重労働の代表のようなパン屋を営みつつ、インプットしなければアウトプットできないと、週に2日完全に休むし、冬は1か月の長期休養までとる、そのうえで家族を養うためにはどう店を経営し、働けばいいのかを考えるというワーキングスタイルなど、どれも目が覚めるような驚き。自分で自分の道を切り開く、というのはこういうことかと思わされて、これはあと何度も読み直したいから売ることはできないな、という一冊だった。

 

 そのなかの、衝撃のひとつが小麦アレルギーについて書いたくだり。何軒かのパン屋で修行した彼は、ハナをすすっているときに同僚に“ようやくパン職人っぽくなってきましたね”と言われたという。手つきがプロっぽくなったのかと思ったが、違った。

 

 

鼻すすってるじゃないですか。パン職人の職業病なんです」

「どういう意味?」

「小麦アレルギーだと思いますよ。僕は鼻より手のほうがひどいですけどね」

 Sくんは、あかぎれでカサカサになった手を僕の目の前に差し出した。

 

 

 驚き①。小麦アレルギーになっても辞めず、アレルギーのままパンを作っている人たちがいっぱいいること。そしてそれが当たり前のほど、パン職人のほとんどは小麦アレルギーにかかってしまうということ。

 最初に聞いたのが「アレルギーなって辞めてった数々の同僚たち」の話だったせいもあって、アレルギー=廃業だと思っていたので、まず私はここで驚いた。そうか、辞めなくてもいいのか……。

 とはいえ、だから万歳、という問題でもない。実際、アレルギーってのは、つらいんですよ…。子供の頃からこれに悩まされてきた私は、体中の断続的かゆみが、そしてそれによるひっかき傷、ずっと通らない鼻、出続けるくしゃみ鼻水などが、どれだけ集中力とやる気を奪うか知っているだけに、「情熱さえあればアレルギーでもよい」とは即断できない…。

 

ていうかそれって、小麦アレルギーじゃなくて…

 で、驚きは続く。その②。

 

「でも、小麦アレルギーの本当の原因は小麦じゃないっていう見方もあるんですよ。ワタナベさんは、輸入小麦のポストハーベスト農薬って知ってます?」

 日本でも流通している小麦粉の90%近くは輸入品で、輸入小麦には、船便で出荷する前に殺虫剤が振りかけられている。(中略)

 収穫後の作物に農薬を振り撒くことは、日本国内では危険だとして禁じられている。ところが、これがなぜか輸入品に関しては当てはまらない。船便で出荷されてから日本に届くまでの約2週間、小麦は、船の上で殺虫剤とともに波に揺られているのだ。(中略)

「国や製粉会社は、小麦から検出されている農薬は基準値を下回っているし、小麦粉を加工して食べる分にはまったく問題ないって言うんですけどね。僕の知ってるパン職人は、だいたい鼻か肌かやられてますし、ワタナベさんの鼻や僕の手も、残留農薬のせいなんじゃないですか」

 

 

 これだけでもがーん!と声が出てしまうほど驚いたのだが、まだ終わりじゃなかった。

 

 僕の最後の修行先、「ルヴァン」というパン屋では、国産小麦だけでパンを作っていた。そこで働きはじめてしばらく、気がつけば、僕の鼻の調子がすっかりよくなっていた。

 

 残留農薬! なんということだ……。思えば、むかーし「美味しんぼ」にはまっていたとき、ごくごく最初のほうで、あれだけ山岡がポストハーベスト(収穫後の殺虫剤散布)の危険性について憤っていたではないか。「ポストハーベスト! 恐ろしい!」とたしかぞっとしたはずなのだが、長い間適当に生きていたら、外国産のレモンやオレンジを買わなければいいのだ、という、ただそれだけしか私の頭には残っていなかったのである…。というか、ポストハーベスト食品は、オレンジなどのように必ずでかでかと「農薬散布してます」と書いてあるのだと思っていた。輸入小麦の袋にそんなものは書いていない。

 

 この話が異様に説得力を持っていたのは、この本を読む前から「キタノカオリ(国産)」をいじってるときはくしゃみが出ない、ということと、「ラ・トラディション・フランセーズ(仏産)」をいじってるときは激しく出る、という事実にぼんやり気づいていたからだ。なんということだー。残留農薬なのか? そうなのか!? いくら国が安全、と言ってたって、実際こんなに首がかゆいんだから、なんかあるってことでしょうが! もちろん、一個人が「そうなのかもしれない」と推測しているだけなんですが。

 

 これはショックです。なぜならば、ラ・トラディション・フランセーズという粉は、これで1本記事を書いたくらい、おいしくてお気に入りだったからである。ていうか、ラ・トラにかぎらず、例えば菓子用の「エクリチュール」とか石臼挽きの「グリストミル」とか、外国産には「これでなければ」と思い込ませる独特のおいしさがあるんだよなあ……。ああ、あれらを全部諦めなければいけないのか。

 幸いなことに、「キタノカオリ」や「スローブレッドクラシック」など、国産にも「これがいい!」と思いつめる粉があるけれど、でもなあ…だからといって、あれら輸入小麦すべてを諦めるのはつらい…。

 

 この問題は簡単には解決しないけれど、長年?と思っいたことに、ひとつ理由が見えてきたということで、ある意味すっきりはした。このさきどうしようかは、まあゆっくり考えよう…。

「腐る経済」おもしろいです。帯にある通り、“これからの生き方を探る、すべての人へ”というフレーズが、まさに。これからの生き方を探ってる時間はもうない46歳にすら、かなり響きました。

京番茶はいかが?

毎回ぎっしり書かなくてもいいよね…と気づいた

 

 あまりにも長い間旅行記を書き続けてきたので、終わったら何を書いていいかわからなくなりました。旅行記を書いてる間は、あれも書きたい、これも書きたい、なのに旅行記が終わらないから書けない…とか思っていたはずなのに、いざ終わると、どのねたも、わざわざ書くほどのことだろうか?などと思えてきて…。

 

 だが、なにも毎回五千字、六千字と書かなきゃいけないわけじゃないのだ、とはたと気づいた。みんなもっとゆるく書いているではないか、と。なので、私もたまにはそうしてみよう。

 

 というわけで、自分のなかでブームが再燃した京番茶について書きます。

一時期京都行きにはまっていたとき、あちこちの飲食店でこのきついほど香ばしいお茶が出てきて、なんだろうこれ、すごくおいしい…と感激し、聞いてみたら、それは京番茶だったのでした。

 

玉露のあまり葉が京番茶になるらし

一保堂のHPによると、

 

玉露甜茶(字が違うのだが変換できない…抹茶の原料になるお茶)の畑で、茶摘みのあとに残った、大きく成長した葉を、枝や茎ごと蒸し、もまずにそのまま乾燥させ出荷直前まで保存。時期がきたら鉄板の上で3分炒ると、このお茶ができるのだそうな。だから京番茶、またはいり番茶、と呼ばれる。

 

さらに、

 いり番茶は「京番茶」とも呼ばれ、京都では普段使いのお茶として最も親しまれているお茶です。ほうじ茶とは趣の異なる独特の香ばしさやさっぱりとした味わいが特徴です。でも、いり番茶になじみのない型には「焚き火臭い」「タバコ臭い」と感じられることも。含まれるカフェインやタンニンの量も少なく、昔から京都では、とくに赤ちゃんや病気の方に良いお茶と伝えられています。

 

 とも書いてある。そうそう、「焚き火臭い」のです! これがたまらない。「タバコ臭い」とは思わないけれど…。まあでも、人を選ぶ味かもしれない。

 

 なんでも手に入るはずの東京で、こんなの見たことないし、買おうと思っても売ってない…と思っていたら、紀ノ国屋でようやく発見。一時期狂ったように飲んでいたけれど、ブームも過ぎていつのまにか忘れていた。今年になってふと思い出してまた買ってみたら、やっぱりおいしいなあ!ということで、毎日夢中で飲んでいる。すぐ夢中になるのだ…。

 茶葉はほぼ枯葉。結構インパクトある。大きな大きな紙袋に入って800円、というのもかなりお安い。紅茶なんかに比べて大量に使うのだけど、それでもこの量は、毎日がぶがぶ飲んでも2~3か月もってしまう。

 

↑大きさを実感してもらうため、目薬を置いてみた。

 

 今回、またハマりなおしたのは、ストレートで飲むのもおいしいけど、ミルクを入れるとなおいっそうおいしいのだ! と発見したから。寝る前や、なんとなく甘いものが欲しいけど食べることはできないという状況で、ミルクティーはかなり助けになる、ということでよく飲んでいたのだけど、紅茶より京番茶のほうがおいしい。この焚火臭さがミルクで中和されて、なんともいい香り。

 

 お気に入りの牛乳も出しちゃおう。その名も「種子島牛乳」。種子島でとれるのだ。スーパー三徳でしか見たことない。1リットル340円くらいするので高いのだけど、しょっちゅう賞味期限が迫って3割引になる。これはすごくおいしい牛乳です。ノンホモジナイズでも低温殺菌でもないけど、そのどちらの牛乳よりもおいしい。三徳はおもしろい牛乳がいっぱい揃ってて、楽しいスーパーです。

 

 

 ローゼンダールのOPUSというキャニスターにうつしてみた。1.8リットル容器にぱんぱんに入れても、まだ紙袋には2/3残ってる…。すごい量だ…。ガラス容器に入れると、この枯葉もなんだかすごく素敵に見える。まあ、本当は完全遮光すべきなのだろうが…。

 

 このキャニスターも大きいけど、ポットもでかい。まさに土瓶といった大きさで、見た目にはこの二回りくらい小さいほうが美しいけど、お茶をがぶがぶ飲める大きなポットというのが第一命題だったので、しかたない。アラビアのGA3、ウラ・プロコッペデザイン。

 

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 GW、ギックリ腰がなおらず、漫画ばかり読んでいたけれど、この棚(っても、この写真じゃなんだかさっぱりわからないな…)にいろいろ載っていたものを降ろしてきれいにしたのは、唯一の成果。ここにローゼンダールを置いてみよう。右の真っ暗なやつは、レーズンのラム酒漬け。

 

  では、今日はゆるくこれで終わり。

スペイン旅行記 その31 ついに帰国。アエロフロート ビジネスクラスの復路、そして書くことの威力。

暗闇から暗闇へ

 着いたときも真っ暗。移動するときも真っ暗。そして帰るときも、やはり真っ暗だった。なにか後ろめたいことをした人のような気持ちで、こそこそと異国の道をスーツケースをひきずって移動する私たち。

 最終日も、朝7時に、宿主のマリアを起こさないよう、静かに家を出た。いろんな事情で仕方なく「真っ暗移動」になったわけだけど、できることなら明るいうちに着きたいし、明るいときに出たいものです…。なんか、とても物悲しい気持ち。

 

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 徒歩10分程度だが、スーツケースとともに、だとなかなかしんどい距離をバス停まで移動。しかしマドリードの中心駅、アトーチャ駅から空港まで1本で行けて、料金5ユーロなのだから、かなりお得。13~35分間隔で発車し、なんと24時間運行。所要時間約40分。いろいろと便利すぎる。

バスの名前はエクスプレス アエロプルト です。

 

 しかし例によってバスが苦手な私は、なんとなく落ち着きなく乗り込み、「無事着きますように…」とただ祈る。しかし朝7時なので無事にはつかず、なかなかの渋滞ラッシュにまきこまれ、一時はかなり情緒不安定になるものの、例によって表に出さないよう、必死でこらえる。AVEに乗ったときはかなりいい感じで、不安なんてやってきようもない、くらいの安定感だったのだけどなあ…。やっぱりだめか…。

 

 それでも1時間ちょっとくらいでバラハス空港到着。もうここはとくに書くべき事件も起こらず、スペインのものはいろいろとスタイリッシュだなあ…なんてことを自販機などを見て思いながら、長い時間待つ。

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 帰りだって、私ひとりだけビジネスクラスなので、私ひとりだけ、豪華なラウンジでぼけっと待つ。ラウンジが広すぎて、なんかこころもとない。ペネロペ・クルースのような強烈なスペイン美女がモップがけをしていたのが印象的だった…。やはり職はたりないのか。

 

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 まずは行きはかなりつらかった、アエロフロート欧州近距離線。帰りは予想していたせいか、なんとか切り抜けるけど、食事が不思議だった。前菜はまあよいとしても、このステーキはなんだろうか…。メニューにはサーロインと書いてあるが点。ためしに食べてみるが、この模様のブロック状に肉がほぐれる。つぎはぎステーキなのか?(すいません、肉についてとても無知です) えーと、正直ひどい味でした。付け合せ、デザート、パン、全てが、??という味。でも、これも予想通りなので、こんなものだよね、と了承。

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⇧せまい機内…。

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⇧すべて、とくに語るべきことなし…。

 

 

モスクワ乗り換えで汗だく

 

 で、モスクワに着いた。チケットにはターミナルDに着いて、同じターミナルDから出る、と書いてあったのだけど、たまにこれが狂うらしい。ターミナルDに着いて、ターミナルFから出る、とか。それはモスクワに着いてみないとわからない。

 で、私たちは見事これにはまってしまったらしい。しかもぼけっとしていて、途中、私から?夫から?どちらが指示したのかも覚えていないのだが、ぼんやりと列に並んでいた。それが成田行きの機に乗るための列だと信じて…。だいーぶ長いこと待っていたら、ふと夫が、「ねえ、俺らこの列に並んでてほんとにいいの?」と恐ろしいことを言い出す。「えっ?」とあせってあたりを見回すと、堂々と「TRANSIT」のサインと、→が! どうやらここはロシアに入国するための列だったらしいのである。どうりで並んでる人がロシア人ばっかりなわけだ!

 

「ここじゃないみたい!」と騒いだあとがもう大変。その矢印にしたがってめくら滅法走りまわり、数々の空港職員にチケットを見せて、何処行けばいいのか?と尋ねたり、ボードを見た結果、今自分たちはターミナルDにいて、成田行きはターミナルFから出る予定に変更されていて、そしてDからFへは歩いて15分かかる、と表示されている!ひえー。ぼんやり列に並んでものすごく時間を稼いでしまったため、あと離陸まで10分、とか、本当に切羽つまった状況になってしまう。とにかく重たいバッグを振り回して走る。足をくじいてるはずの夫ものちのちひどいことになるのでは、というほどの痛みを振り切って走る。美しいロシア人のCAさんたちが、「あんたたち、急いで急いで!」と走るジェスチャーをして、いろんな人を制して優先的に道を開けてくれたり、チケットを見て仰天(時間がないから)、いろんな人に連絡してくれたり、と、なかなか…スリリングな疾走でありました…。

 

 そんなこんなで汗びっしょりで機内へ。いやはや危ないところだった…。乗れなかったときのことをあれこれ想像して、また汗をかきつつ、ようやく乗れたひろーい飛行機に安堵する。飛行機に乗って安堵する、というのも私は初めての経験だ…。

行きはとりそこねたアメニティを撮影したり、私を担当するらしい、「glee」のカートのようなかわいいCAに挨拶されたり(本当にかわいかった)しているうちに離陸。

 

http://img.elle.co.jp/var/ellejp/storage/images/culture/celebcolumn/p-celeb-first-job_13_0403/chris-colfer/6400422-1-jpn-JP/_1_image_size_372_x.jpg

⇧カート。エルオンラインから借りました。

http://www.elle.co.jp/culture/celebcolumn/P-celeb-first-job_13_0403/Chris-Colfer

 

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⇧アメニティ。黒い物体はアイマスク。

 なんだか運動したし、安堵してるし、帰りは眠れるかなーと淡い期待を抱きつつ、まずはごはん。モスクワで積む料理なのでなにも期待しない。

 

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↑まずバラ(造花)がカートより配られる…。え? なんだろう…。すごいサービスだなあ。

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 ↑メニュー。

 

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↑アペタイザー。カトラリーがないので、どうやってこのカナッペに、右のジャム的なものをつけたらいいのかとても困る。あれ? でも悪くないな、味…。

 

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↑前菜。これも、なに食べたかメニューを見ないと思い出せないほどなのだけど、なんかおいしい。おかしいな。

 

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↑サラダ。ほくほくのかぼちゃ、まったくけちっていないアーモンドスライス入りで、行き同様やはりおいしい。しかし、マドリード→モスクワ線で食べてしまったので、そもそもあまりおなかすいていないのに、かぼちゃが入って、かなりこたえた。おいしい。かなりおいしい。しかしおなかがいっぱいなのだ…! ああ!

 

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↑メイン。ひらめのハーブ焼き。付け合わせはローストトマトに、たっぷりの黒米! なんかロシアっぽい。これまた、なかなかおいしい。えー、おいしいんだ? へー。…でもしかし、二口食べたらもおなかが限界だった。もう水すらも入らない、というくらい満腹で、これを残すことを、あの天使のようなカートに伝えるのが本当に心苦しくてたまらない。「すっごくおいしいんだけど、どうしても入らない」と伝えると、「いいよ、いいよ、いいんだよ。デザートはどうする? いらない? 大丈夫。お茶は? うん、持ってくるね」という感じで、詫びまくる私を逆になぐさめてくれた。ああ、今思い出しても申し訳なくてたまらない。そして、マドリード線のくずのようなステーキを食べて、これを残すとは…と自分の不覚さ加減に腹をたてる。

 

一方、夫はエコノミー席でこのようなものを食べていたという。

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↑「味………わりとひどかったかなあ」と夫。

 

 とにかく具合が悪くなるほど満腹で、なんとか寝てごまかそうとする。しかし……これが眠れないんだなあ。ほんのすこしうとうとしては、目が覚めてしまう。ポッドキャストの「町山智浩の映画ムダ話」もどんどん進行して、終わってしまったらどうしよう、と気が気でない。そんなふうに悪戦苦闘していると、突然、BOSEノイズキャンセリングヘッドホンから異音が! ピーとかジーとかジジジ…等々、おもわずヘッドホンをかなぐり捨てたくなるような不快な音! えー、機内での平和にはこれが頼りなのにどういうこと!? リセットとかいろいろしてみたけど、結局異音はおさまらず、よって私はますます眠れず。辛いなあ……と眉間にシワを寄せたまま、長い時間をすごすのであった。あーあ。

 

 この異音、あとでいろいろ調べたら、単なる電池切れだったようだ……なんということ。しかも行きの機内で、たしかに私は「これ、電池大丈夫かなあ? 機内で電池切れ、なんてことになったら私死んじゃう」とぼんやり思っていたのだ。そして「スペインについたら電池買っとこう」とすら考えていた。見事に忘れていた。そして見事に予想は現実化した。

教訓です。ヘッドホンの電池は必ず予備を用意するべし。

 

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 ろくに眠れないうちに朝ごはんがきた。これ…器に入っているのはパンケーキなんだよね…うーん。確かに小麦で作ったんだろうが…。このプレートはすべていまいちだった。写真もブレまくりですみません。

 

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↑夫のごはん。フォーチューンクッキー? なぜ?

 

 そして成田到着!

 

 帰りもがんばってアクセス成田(バス)に乗って帰宅。うわー、無事帰ってきた…と呆然としていた半日後、親戚が亡くなってしまい、我々は再び荷造りして三重県まで行く…。夫によると「あれも旅行の一部」ということで、この新幹線で激写した富士山がスペイン旅行の最後を締めくくったのでありました。

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おじさん、安らかにお眠りください。いつもよくしてくれてありがとう。

 

 おまけ。

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↑この旅行のチケット類。ビスケットとチョコレートはマリアが毎日補充してくれて、毎日むしゃむしゃ食べていた。

 

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↑唯一たくさんお金を使った店、バルセロナのナッツ屋さん、CASA GISPERTのナッツ類。マルコナアーモンド、ピーカンナッツ、ピスタチオ、レーズンにいちじく。サフラン。種入のレーズンというものを勧められて食べたけど、本当に種がぷちぷちしておいしかった。

 

 

 この立派でものすごく甘いレーズンを、どうやってお菓子に使おうか、まだ悩み中。悩みながらつまんじゃって、どんどん減っている。

 

あとがき(!)

 全31回、執筆期間4か月。長々と読んでくださってありがとうございました。

4月すぎた頃になると、正直「もう何も覚えてないっす…」と毎回書く前に思っていたのですが、いざ書いてみて、そして写真も眺めてみると、いろいろ思い出すものですね。自分の脳への信頼が久々に回復しました。一個なにか出てくると、ずるずるといろんなことを思い出す。

「いろいろと忘れないために、とにかく写真を撮りまくろう」と数年前に決めて、旅行では何百枚も撮り、それを旅行後に見てまた旅した気分になる……これをよしとしていたのだが、文章で書き起こしてみると、その再現力は写真の比ではなかった。

 

書くとこんなに思い出すんだ! 

 

 自分でもびっくり。これらのひきずりだされた記憶は、書かなかったらそのまま忘れ去られていたはず。そう思うと、うーん。書いてよかったなあ。別になんの利益を生み出すわけでもないのだが…。なんか気持ちが充実するというか。満たされるというか。みなさんもぜひ、「もう書くことない」「書いてなんなの?」などと思わず、体験したこと、妄想したこと、書いてみましょう。…と、柄にもなくおすすめしたい気分にすらなる。

 書いて、思い出して、もう一回旅した気分にもなれる。間違いなく私はスペインに二度行った、と思う。昨年の11月にチケットを買ったときから、この5月まで、実に私は7か月間、この旅を愉しんだということ。なんというか、しゃぶりつくしたというか、もとをとったというか、文字通り骨の髄まで味わった。

 これはいい旅のスタイルだなあ、と我ながら自画自賛。あと何回行けるかわからないけど、旅の新定番にしようと思う。

 

スペイン旅行記 その30 マドリード3日めも食べて終わる

マドリード最終日 

  さて、ついに旅行も最後の日になりました。出発は明日の早朝なので、楽しめるのは本日が最後。けれど、とにかく念願のプラド行きは果たしたので、あとはなんでもいいかあ、なにも決めずに今度こそのんびり過ごそう、と決意。

マドリードは見るところがない」といわれたもするそうで、みんな時間があるとここから1時間くらいで行ける古都トレドに行ったりするらしいのだが、私たちはそれやると疲れ果てそうなので、やめ。王宮見学でもしますか、ということになった。

 

 宿からひたすら西へ。サンタ・アナ広場~マヨール広場~サンミゲル市場を通過して、約20~30分。散歩をかねてちょうどよい距離だ。実はこの道、昨日の祭りからの帰り道通った、と途中ようやく気づく。このとき、マヨール広場でなにか作っていた。

 

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 なんだろう…と思いつつ、追求せずに通過してしまったのだが、今わかった。

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↑アルゼンチンのお祭りで、アルゼンチン式に肉や野菜を焼くための装置だったのだ。

上に肉を、周囲に野菜を並べ、気長に気長に待つというものらしい。食い意地の張った夫は、「いつ食べさせてくれるんだろう。ぜひ食べたい」と言って、その場から動かない。

 

その間にお兄さんたちがパンケーキ(らしきもの)をひっくり返したり、かぼちゃの位置を替えたりして、お世話しているのが楽しいのだが、それにしても食べさせてくれる気配はまるでないので、とにかく先に王宮へ行くことにする。

 

 途中、有名なサンミゲル市場も通る。「観光客相手で、値段は高いしモノは適当云々」とあまりいいことを聞かないのだが、通りがかりにあるならぜひ見よう、ということでここも帰りに来ることに。

 

 例によって朝ごはんは調達できなかったので、王宮が開くまでの時間、目の前にあった素敵なベーカリーに入る。

 

なかにはまるで靴屋のようなソファがあって、不思議。キッシュを書い、そこに座って食べる。これまた「!」といううまさ。

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⇧ショーケース、真ん中がキッシュ。

こんなにあれもこれも「おいしいおいしい」と書くと、まるで味のわからない単細胞のような気がしてつらいのだけれど、しかしおいしかったのは事実。生地もうまかったけど、アパレイユが抜群においしいキッシュであった。卵と生クリーム(もしくは牛乳)で作るキッシュのアパレイユ、ひとくちめはおいしいのだがすぐにくどく感じてきて、生地もバターまみれだし、食べ終わると「もういいや」と思ってしまうものなのだが、なぜかここのキッシュはソフトな味わいで、おかわりしたくなるほどおいしかった。なにか違うものを使ってると思うのだが、なんだろう? 他に牛乳がおいしいとか、そんな理由なのか? 「なぜこう、いちいちおいしいのだろう。東京は味のレベルが低いのか?」とあれこれぶつぶつ言いながら王宮へ。

 

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 この王宮は、私の興味のあるフェリペ2世は住んでなくて、そのあとのフェリペ5世が建築を命じて1738年に建築開始、完成は1755年とのことで、食いつきがやや弱い私。しかし美しいこと、でかいことには変わりなく、たどりつくと「おおおおー」と声をあげてしまう。

 

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⇧このアーチを通して、マドリードの郊外が臨める。とても美しい。

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 館内は撮影禁止。内部も豪華絢爛だったけれど、すごかったのは王立武具博物館。ここも写真撮影禁止なのがかえすがえすもくやしい…。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/a4/ArmeriaPalacioRealMadrid.JPG

 写真はwikipediaよりお借りしました。要するに鎧、剣、甲冑など様々な武具がずらりと展示してあるのだけど、こんなものを間近でまじまじと見たことがなかったので、ものすごくおもしろかった。こんなにすさまじく重く閉塞感のあるものを見につけて戦争に行ったのか…と思うと、人って、やろうと思えばなんでもできるんだなあ、としみじみ。もちろん閉所恐怖の私にはこんなもの、着ることすらできない。

 なかには子供用の甲冑まであって、どういう理由でこんな子供が戦に? 王子などがパフォーマンスで? そうであればいいけどそうでないならつらいなあ…とか、馬用の甲冑などを見ると、こんなものつけられて人も乗せて…と馬ってすごい、だとか、この剣は何人の血を吸ったのだろうとか、そもそもこれだけ防備していても、槍をさせば突き刺さるものなのか? とか、こんなに剣や甲冑を装飾して、つまり戦は祭りなのか?……等々、頭がぐるぐるして楽しかった。

 

予想外のサンミゲル市場

 昼近くになり、帰り道をサンミゲル市場へいそぐ。決して期待してはいけないと肝に命じつつ、とにかくおなかすいて…。

f:id:camecon:20170505161158j:plain だが予想に反して、改装したばかりらしく、ぴかぴかでデパ地下みたいで楽しそう。

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ものすごくおいしかったヨーグルトメーカーのショップもある。いろんなトッピングをしてくれるらしい。しかしここのヨーグルト、普通に食べるほうがおいしいんだよな、と昨日プレーンタイプを食べて思っていたので、トッピングには興味わかず。

 

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 さっそくいろいろ食べてみる。なにせほんの少しから買えるから、失敗しても痛手が少ない。目についたものをちょっとずつ食べる。

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  やはり期待(?)に反してどれもこれもおいしいではないか……どういうことだ。かなりおいしいのだ。

 

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サラゴサのバルで観て、謎だった(聞いたけど、スペイン語でまくしたてられてなんだかわからなかった)食べ物にも再び出会い、これが魚のすり身だったのだと知る。SURIMI。世界共通語になりつつあるらしい。おいしかった。

 

「肉、焼けたかな!」

 と夫が言うのは、行きがけのアルゼンチン祭りのことだ。彼はまだ食べさせてもらう気でいるらしい。サンミゲル市場でだいぶおなかふくらませつつも、またマヨール広場へ。

 

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 焼けている!ずいぶん焼けている! 煙の量と、下の野菜を見ると、どれだけ時間がたったかわかる。

「もう焼けてるよな。もう食べれるよな」とわくわくする夫。ふたりでじーっと「その時」が来るのを待ってみる。

…が、いつまでたっても肉を切り出す気配はなかった…。かなーり待ったのだが、事態が変化せず、ついに断念…。その後夫は、写真を観るたびに「あーあ。どんな味だったんだよ…」と残念がっていた。

 

美食は終わらず

 

 サンミゲル市場でいろいろ食べたのだが、朝食なんだかおやつなんだかわからない中途半端な量で、アルゼンチン肉が食べれなかったこともあり、「やっぱり昼を食べるべし」ということになった。宿の周辺には気になる店がたくさんあり、せめてあと1、2軒は試してみたかったし。

 

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 そのなかでこの店を選んだのは、外観がとびきりかわいくて、通りかかるたびにいつも大賑わいだったから。入ってみると、いつにもましていっそう混んでいた。日曜の昼すぎ。バルはこんなに混むものなのだろうか? バルとかレストランとかカフェというよりむしろクラブ、もしくは満員電車のような店内をなんとかかいくぐってわずか1席空いていた席へ。おなかはすごく減っているわけではないからハムとイワシという、おつまみのようなものを頼む。こんなに客が入り乱れていて、いち東洋人の注文なんか通るのだろうか…と不安になりながら待つ。それぐらい混んでいたのだ。

 

 

 しかし、ほどなくオーダーは来た。

 

 すごい迫力で。写真でどれくらい伝わるかわからないのだけれど、これが目の前の小さなテーブルにどん、と置かれたときのショックはなかなかだった。もりもりのイワシ。そしてハム。たしかソーセージと聞いた気がしたのだが、ハム。

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「うわ、酸っぱい!」

 酸っぱいものは得意ではない夫が、口に入れたとたん、叫ぶ。酸っぱいもの好きの私は、じゃあ私しか食べれないのか?と心配になったがすぐに

「でもすっごくうまい!」とさらに叫んだ。

 私も食べてみる。ほんとにしっかりと、がっつりと酸っぱい。そしてものすごくおいしい! うわー、と言うほど強烈な酸味なのに、きつさが全くない。ワインビネガーの差なのか?

「この酸っぱさは日本にはないなー、ありえないなー、でもうまいなあ」

 と言いながら、夫は夢中で食べる。私も負けずに食べる。あっという間に完食。おつまみのような皿だが、パンと一緒に食べたらおなかはかなりふくれる。もちろん、ハムも文句なしにうまかった。

 ともかく、この店も、大当たりだったのだ。いったいどうして? こんなに毎回行く店行く店すべておいしい、なんてこと、あるのだろうか。しかし、半年たった今でもあのイワシの味はくっきりと思い出せる。それほど強烈だった。あの混み具合も、あの味なら当然だろう。

 客の一部分はママ風の女性の集団。午前中に子供の学校かなにかの集まりがあって、その帰りに昼食兼飲み、という感じだろうか。みんなめちゃくちゃよくしゃべる。立ったまま、グラス片手に、ときどきつまみを口に入れて、しゃべる、笑う、食べる、飲む。この人たちが飲んでさわぐのは夜だけではないのだ…。

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⇧こんな感じ。

 結局、最も楽しいことは誰かとこうやって盛り上がることなのだろうか。そんなことをもう何年もしていない自分は、うらやましくなり、そして不安にもなる。

 

「いいなあ~楽しそう」とママたちを横目で見ながら外に出ると、外は外で盛り上がっていた。喫煙組がいたのである。

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 人付きあいの大切さを改めてつきつけられつつ、夫はまたどこぞで仕事するというので、私は再び、ひとりぼっちでプラド美術館へ。

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 昨日観た名画をもういっかい観て、昨日流して観た絵たちもじっくり見直す。二回観るって大事かも、としみじみ思いつつ観る。一回目はどうしても「嵐のように過ぎ去っていく」という感じで観てしまうのだが、二回目はだいぶ冷静になれる。日曜の午後だが、オフシーズンだからか館内はどこもほどほどの混み具合で、やっぱりここは居心地のいい美術館だなと再確認。

 昨日は「遠いから嫌だ」と夫に拒否られたカフェにも行ってみる。美術館のカフェは当たりが多いのだが、ここもいい場所だった。

 

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 驚いたのは、オレンジジュースが衝撃のおいしさだったこと。バルセロナのカフェの搾りたてジュースは、普通の、よく知ってる搾りたての味がしたが、このカフェのそれは、知らない味だった。きっとオレンジの種類が違うのだろう。

 ちなみにオレンジジュースはスペイン語で「スモ デ ナランハ」という。スモがジュースで、ナランハがオレンジ。英語と似たような単語が多い…つまりラテン語源流ということだけど…スペイン語だが、こんなふうにときどき、まるきり英語とかけはなれた言葉になることがある。これは長い間スペインを支配していたモーロ人(つまりイスラム)たちの言葉が影響しているのだそうな。紅山雪夫著「添乗員ヒミツの参考書 魅惑のスペイン」に書いてあった。

「資料を探そう」には載せ忘れたのだけど、これはおもに旅行後に読んだから。時間がなくて…。スペインのなりたちがかなり昔のことからがっつり書かれてあって勉強になります。これを読んで、マドリードで考古学博物館に行かなかったことをかなり悔いました。アルタミラ洞窟の壁画(複製ですが)があり、すごく見応えがあるのだそうな。「添乗員~」は私の資料のなかではかなり教科書的な本なのだけど、著者のスペイン愛がひしひしと伝わってきて、良書です。

 

 そして、実は隠れテーマにしていた目的を、ここプラド美術館で叶えることができた。「ミュージアムショップで素敵なマグカップは手に入るのか?」である。そう、ここにあったのだ。

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 形といい、シンプルさといい、なのに見えないような奥ゆかしさでMUSEO DEL PRADOと浮き彫りが。これはミュージアムショップで手に入るマグとしては最上の部類に位置するものではないだろうか。なにしろ、形が美しい。ありきたりのまっすぐな、どてっとしたマグカップとは一線を隠す流線型。

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 外側は潔く白の無地、でも内側はカラフル。しかもその色が水色、抹茶色(私が買った色)、焦げ茶色と、誰にもこびない渋い選択。いつもなら全色、少なくとも2色は買うのだが、「そんなにガツガツものを買うべきではない。1個で充分じゃ」とどこかから老成した自分の声が聞こえてきたので、思い切って1個にしてみた。このマグの美しさは2個3個と並べたときこそ、発揮されるとわかってはいたのだが…(単体だと色が渋すぎて地味…)。3色並べた姿を公開したい、とググってみたが、なんと見つけられなかった。うーん。やっぱり買うべきだったのかなあ。

 値段も忘れてしまったのだが、「あれ?意外と安い!」と思った記憶はある。12ユーロくらいだろうか。

 

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⇧夫はひとりでプラド美術館隣の公園にでかけたそうな。この公園のなかには、マリアのお兄さんがデザインしたエリアもあるという。

そして最後の美食

 そんな充実した午後を過ごして、夕方帰宅。「最後だから夕飯も食べよう」と夫とともに外に出る。「もう一回「Bistoronomika」でもいいよね、という案も出たのだが、日曜は休みだった…。で、またぐるぐると回る。日曜なので休みも多く、なかなか店が決まらないなか、夫が「ここはどう?」と聞いてきた。まあごく普通にかわいらしい、カジュアルなバル…というかカフェ?な佇まいだったのだが、店の前にでっかい垂れ幕が下がっていて、「トルティーヤ」だの「パエリア」だの印刷されている。「こんな店は嫌だ」と直観が走る。なんだか…自由が丘あたりの、若者を狙う軽薄なカフェレストランのようではないか(すみません。自由が丘に罪はないのですが)。なのでいったん通りすぎたのだが、なんとなくどこも決め手に欠けて(まあつまり、例によって時間が早いからどこもがらすきで、入るのがためらわれるのだ)、夫が妙に「ここ、いいみたいだよ? 評価も悪くないし」と押してくるので、まあいいか、と折れて入店。7時くらいだったので、客は1組のみ。おそらく、観光客の家族連れだ。

 なにも期待せずに、とにかく全然野菜が食べれていないので(スペインは野菜不足になる、と書いてあったけど本当だった)、サラダと、夫が食べたいというトルティーヤを。

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↑サラダがきた。

 

これをしげしげとながめてすこし不思議な気持ちに。なんだろう…。おいしそうなんだけど、このサラダ…。トマトはちゃんと皮がむいてあるし、ツナはマグロを今コンフィしたかのようなチャンク感、ごろんとしてておいしそう。

 実際、食べたらおいしいし! ドレッシングも普通で、でもばしっと味が決まってるし、量も適量。なんだろうこの店、すごくちゃんと料理してるんだ!とまたダメ押しの驚き。またここでも当たりに出会ってしまったのか。こうなると当たるのがまずいかのような…。

 

 で、トルティーヤ

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これまた…ナイフを入れると、中からとろんと卵と、ほくっとじゃがいもが出てくる。うわー、おいしそう! で、おいしい! トルティーヤとは揚げた芋を卵でくるむのが大切なのだ、とどこかに書いてあったけど、揚げた芋の油の風味と卵の味が一体となって………うーん、これはおいしい! なんてことない料理なんだろうけど、おいしい。バルセロナのcal pepのトルティーヤとはちょっと違うなあ。あれも食べたときは、「まあ、おいしい…かな」と思ったけど、うーん、ここのほうが全然おいしい。

 

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↑なので、続けてオーダーする。これはエビと貝のオイル煮…アヒージョなのかな、つまり? こんなものがおいしくないわけがない。だしが出まくりですごくおいしい。

 

 結局、「軽く食べる」はずが、がっつり食べてしまった。店内は最後までがらすきだったけれど…。

 お湯の出し方も覚えたし

 ふたりともすっかり満足して、帰宅。気合を入れて風呂を入れてみたら、なんとかお湯が出た………よかった……ほんとに……。どうもお湯を出しすぎるといけないらしい、と学ぶ。つまりカランを全開にせず、半分くらいにしておくと、給湯器もがんばれるようだ。…と学んだけれど、もうここのお風呂に入ることもない。さみしい。

 マリアは朝起きないというので、お別れも今、する。空港まではバスで行くといいわよ、全然安いし、タクシーよりほんの少し時間がかかるだけ、と教えてくれて、バス停の位置を詳しく教わる。マリアが最近お気に入りの中国人アーティストの絵を見せてもらったり、家族の話を聞いたりして、つたない英語で一生懸命ラストトーク。日本に来るなら連絡してね、とも言う。しかしうちには泊まれる場所はないの…とは言えなかったけど…。

 

 マリアが部屋にひっこんでからは、溜まった湯で風呂に入り、明日は早いので荷造も今晩中にしておかなければ、とがたごとやりながら夜がふけた。