独楽ログ〜こまログ〜

50代、女性、日本人、がひとりで毎日楽しくすごす方法を検証、実践、そして記録。

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ふたたびのマレーシア旅行2024①

去年の旅行記を書いて今年も旅した気分になる

 …ために1年寝かしておいたわけではなく、ただ単に怠けていただけなのですが、今年はアジアに行く予定がなく、あんなに「暑いから嫌」と毛嫌いしていた東南アジア、二回行ったらなんともいえない情が湧いて、「あーちょっくら行こうかなー」という気分になるのが不思議。美術館や博物館が欧米に比べて少ないし、海っ子でもないので、いわゆる「目的」はあんまりない、正直。だがほんとにただ「飯を食う」「プールで泳ぐ」「マッサージを受ける」「持参した本と漫画を読む」ためだけに行きたいと思ってしまっている自分がいた。でもとりあえず今のところ行く予定はない。ので、書いて行った気になろうかなと思った次第。

 

「あのときの感動をもう一度」、は……

正式名はシャングリラズ ラサ サヤン リゾート & スパ ペナン

 うちでは「初めて行くところはどこでもおもしろい」となっていて、私が病的に執着するNY以外はあんまり同じところにはいかないのだが、昨年「ビーチリゾート」という「プールで寝そべってラウンジで食べるだけ」という怠惰な休暇に夫が感動。「休むってこういうことか!」と知ったという(自営業者なので年がら年中働いている)。で、「来年も絶対来たい」と言い出した。「同じところ……しかも”同じ場所で同じことをする”だよね。やめたほうがいいよ」と言ったが聞き入れられず。かなり説得したのだが、無駄だった。いやね、これまでの人生で学んだ大事なことのひとつに、

「あのときの感動をもう一度、はだいたい無理」

 というのがあるんですよ。”すっごいよかったから、もう一度したい”で企画した二度目の旅行で初回と同じ感動・喜びを再現できる確率はかなり低い。そもそものハードルが”最高だった”に合わせてるから高すぎるし、”前みたい”と体験も限定しているからますます再現が難しいし。まあでもふだん、休みたいとか贅沢したいとか言わない人なので、その彼がそんなに言うのなら…とまた同じシャングリラ・ラサ・サヤンに予約を入れた。前回の後悔をふまえて3泊ではなく4泊に。去年は朝10時に着いちゃってどうしようと思ってたら部屋に入れてくれて、なおかつスイートにアップグレード! という衝撃のサービス(ただの平会員なのに)を提供されたので、それも踏まえてクアラルンプール朝7時発、ペナン9時半着、ホテル10時半着、というスケジュール。

これは去年は見れなかった。修繕の足場に登りまくる猿たち

 まず、ここでつまずく。部屋には入れてくれたが、アップグレードはなかった……。ま、そうですよね……。ちょっとビューがかわるくらいならともかく、普通の部屋がいきなりスイートって、なかなかないですよね。このホテルは普通の部屋よりスイートのほうが多いので、アップグレードの確率は他よりは高いとはいえ。とて、ですよ。去年来たのは11月で今年は9月。たぶん9月のほうが混んでるのだろう。

今回は一階の庭つきのお部屋

 もちろん事前に「アップグレードされない可能性も多いにあるよね」という話し合いはあった。「されなくてもいいか」と非スイートを予約したのは、写真で見る限りこの部屋が居心地よさそうだったからである。とくに専用庭がついているのがよい。

 で、実際行ってみたら、まあ写真通りかわいらしく素敵だったのだが、まずテラス部分には屋根がなく、スコールが降るとソファが水浸しになり、するとしばらく全然座れない。そしてなんというか、2階バルコニーのソファで感じたそよ風が感じられず、ただただ暑い。クーラーで冷えすぎるとすぐバルコニーに出る、というのが気に入っていたので、その楽しみがあまりないのである。そしてもちろん、部屋はだいぶ狭くなる。「あー……やっぱスイートのほうがいいねえ……」と着いて数時間で後悔した。さらにスーツケースが割れていることも発見。くー……。1泊した後、スイートに替えてもらった。有料で…。

 

今回のお供の本たち:1『コインロッカー・ベイビーズ村上龍

 とはいえ、相変わらずビーチのすぐそばに森、という樹木フリークには最高の景色は変わらなかった。プールサイドで泳ぐ→読む→泳ぐという楽しみも満喫できた。ホテル全体は11月より混んでいるようだけど、プールサイドのパラソルのある席の争奪戦はあまり起きず、毎日まあまあいい席につけた。

大学時代以来の再読!

 このときツイッターで、「(みんな春樹の話ばっかりするけど)村上龍ってのはすごいんですよ」説が話題になっていて、大学のとき取り憑かれたように読み倒して、そして「もういい。卒業した」と思って完全に過去のものにしていたのだが、「今読むとどうなんだろう?」と思って持参してみた。意外にもかつてと同じ感想…「強引なまでのドライブ感」。過去と違うのは、二十代前半でこれが書けることのすごさをしみじみ。そりゃ時代の寵児になるわな……。が、ペナンにいる間読んで、「いや、もういいか…」と挫折してしまった。「強引なまでのドライブ感」は、今の自分にはさほど必要でなかったようだ、と結論して。

 

2『サブカル・スーパースター鬱伝吉田豪

フライトタイムを救ってくれた

 こっちはかな〜りおもしろかった。聞き手も聞かれ手もすごいメンツなのでおもしろくないわけがないのだが…。”サブカルのスターってみんな鬱になるよね?”という、まずこのテーマ立てがすごいし。とにかく最初から最後までむちゃくちゃおもしろくて、ともするとフライト中など気が滅入ってパニック障害が起きたりする私には最良のお供になった。誰かも書いてたけど、飛行機が苦手ならとにかく没入できるエンタテインメントを用意するしかないのである。

 おもしろかったのは、サブカルスターという、一見「儲かってそう」(今は思わないけどかつては思ってた)な人たち、実は流行と雰囲気にかなり左右される仕事なわけで、あっという間に生活が不安定になる。もともとが能天気とは対極の性格に加え、この不安定な生活が鬱の発生確率を高くしているようなのだ。そりゃそうだ。ほとんどの鬱はお金があれば解決すると誰かも言ってたし。その時代をどうやって乗り切ったのか…というか、数名は現在も乗り切りきれてないあたり非常に切実で、本当に読む手が止まらない。数名は故人だしなあ。

 このなかでもっとも成功して「生活の不安」はないだろうリリー・フランキーの、誰よりも深い闇が炸裂したインタビューが怖かった。なにしろ成功していて、最近はテレビ番組等で実にソフトにしゃべってたりするからよけいに…。「あ、ほんとはこんなこと考えてるんだ」というその思考が、それこそ売れなかった頃の有吉みたいに尖ってかつ毒々していてぞっとした。昔、音楽雑誌『クロスビート』の連載に夢中になっていて、当時はイラストレーター&コラムニストが肩書の、本当にただの”ナイフのように尖ったダメな人”を標榜していて、ダメっぷりをひたすら書いてた気がするのだが、ものすごく面白かったんだよね…。当時ひよっこライターだった自分、「もう、すごいですから」と某誌の編集長に読ませてコラムを依頼しようとしたが、「これ面白いの? わかんねー」とはねつけられて悔しかった。あと、別の雑誌では別の編集者がよくリリーさんにイラストを頼んでいて、それが全く締め切りに間に合わず、それも毎回、恐ろしい日程で全然仕上げてこなくて、彼女たち(二人で1組の編集者だった)が泣いていたのも覚えている。「すごいぶっ飛ばし方だな……やっぱり連載そのまんまの人なんだ」と感心し、「これは頼めない」と思ったが、その後すぐ、『東京タワー』がベストセラーになり、名優にもなり。それもスピルバーグが「あいつは誰だ!?」と言うほどの名優に……。まあでも、そのぶん激しい鬱にもなっていた。人生は簡単ではない。その時荒れ方が凄まじかったのだ。あまりにも生々しいインタビューであった。リゾートホテルのプールサイドには全くもってふさわしくない本だったが、「夢中で読む」体験が得られた。最近、「夢中で読む」のも大変なんだよー。集中力ないから。

 

ホテル周り散歩

 

知ってるような知らないような不思議な町並み

 ビーチリゾートとはいえ、海はそこまできれいではない(だから他よりリーズナブル)し、海に入る、ビーチで寝そべる、という趣味もないので、プールサイドに飽きると近所を散歩。ホテルが林立するなかてくてく歩くと住宅街が現れ(暑い)、ここに家を建てて住むのはどんな暮らしでどんな感じなのだろうと想像して楽しむ。すぐそこに山があり、道も広くて、なんとなく居心地いい。グーグル・マップで評価の高いお店を探して、お昼ごはん。

半野外のマレー&中華料理店

 大木を切らずにどうにか店舗設営したのね…。偉い。しかしこれしかしようがなかったのか…とも思うが…。

しかし味はおいしいのであった…。アジア飯は飽きない

 基本的に去年と同じように朝食会場に2、3時間いてまったり『大奥』の続き(去年10巻くらいまで読んで、あとは我慢してた)を読み、あとはジム→プールで水泳と読書、夕方になるとカクテルアワーでロビーへ移動してまるで夕食のようなおつまみを食べ、散歩して寝る、という数日を過ごした。あ、途中、車で30分かけて中心地の巨大ショッピングモールへ行くなど、もした。まあ、モールは世界どこも同じ。それでもそこで食べた中華料理はやはり唸るほど美味しかったが。

 まあ基本的には楽しかったのだが、何もかも「去年ほどではない」。なにしろ部屋はアップグレードされないし、そもそも”新しい場所”じゃない。新鮮じゃないのだ。さらに去年、朝食会場はダイニングで優雅にオーダーでもいいし、朝食会場のビュッフェでもいい、と言われ、毎朝「今日はどっちに行こう?」と悩ましかったのだけど、途中で夫が「別に両方行ってもいいんじゃないの?」と言い出した(去年のブログに書いた)。「だって部屋番号聞かれるけど、チェックしてないじゃない」。そして「どっちか一つに行けます、ともどこにも書いてないし」とたたみかける。それで「よし、試してみよう」と突撃したら実際すんなり入れてしまって、ダイニングでゆったり食べ、ビュッフェ会場でお茶とお菓子を飲みつつ漫画を読む、という最高の朝時間が過ごせた。

 が、今回もそれをやったら、翌日怒られた…。「昨日、あっちにも行ったわね? 朝食会場はどっちか一つよ」とダイニングのお姉ちゃんに…。「あっ、そうなんだ! ごめんね」と苦しい笑顔で邪気のないふりをする私の横で、笑いを堪える夫。恥ずかしすぎる。ああ、二度目ってないんだよ。初回が勝負なんだよ。同じ場所で同じ最高の体験、は無理。

エントピア ペナン バタフライファー

 そんなこんなで最終日。昼前にチェックアウトするので、午前中はどこか行くか、となり、蝶の博物館へ。

 ホテルから車で15分くらい。島の反対側のほうへ行く。

室内にジャングルがある、そこに蝶が自由に飛び回っている、という

 写真ではわかりづらいと思うが、あたり一面に飛んでるのですよ、蝶が。幻想的。別に虫が得意なわけではないのだが、この光景は見るべき、と思った。幻惑されます。レビューに「蚊はあんまりいない」とあったのもよい。近くのスパイスガーデンは、蚊がすごいというので諦めた。

赤いハイビスカス(だよね?)に群がるオレンジの蝶たち。

 あと、他の爬虫類・昆虫類もめっちゃ見れます(放し飼いではない)。まあこれはほとんど怖いものみたさというか、苦手な人には本当に拷問のような、そうでない人にはおもしろいだろう体験。私だって家のなかにそれらが現れたら発狂すると思うけど、蝶と違ってちゃんと隔離されているし自分ちではないので楽しめた。

 

で、グラブを呼んでバタワース駅へ向かうのだが

 ペナンのあとはクアラルンプールへ行く。田舎でリラックス→都会でリラックス、という黄金の怠惰プランを組んでいた。前回は飛行機(1時間)だったのだが、空港まで50分かかるし、だったらフェリー(乗船時間8分。ペナンからは無料!)で本土バタワース駅に渡って評判のよいマレーシアの特急電車に乗るのもよいのでは、ということになった。4時間かかるけど、上のクラスの席ならシートも広々、お弁当まで出るらしい。地図を見ると、フェリー乗り場は空港のずいぶん手前にあり、ショートカットのような気がするのだ。

↑ホテルのあるペナン島(左)から、マレーシア本土(右)への陸路はこんな感じ。空港はこのずーっと南にある。ホテルから空港も車で50分くらい。ホテルから本土バタワースも50分くらい。

橋の上で渋滞中。向こうに見えるのがバタワースの町

 

 が、どういうわけか、直前になってフェリーではなく車で橋を渡ってバタワースまで直行、といことになってしまった。Grabを呼んで港へ行き、チケット買って(予約はできない)フェリーに乗り、降りてバタワース駅へ…という細かい移動が突然面倒くさくなり、グーグルによると時間もたいして変わらないようだし、ホテルから乗った車がそのままバタワース駅まで行くなら楽だ。乗り物嫌いなのでいつもはこういう案は絶対採用しないのだが、なんか……いいと思ってしまったんだよな……。なんでだろう。

 ホテルの人に何度も何度も確認して、バタワース駅までは土曜の渋滞を見込んで2時間あれば、ということになった。グーグル・マップでは50分で着くと書いてあった。

 で、さらに念を入れて2時間半前にグラブを呼ぶ。…すると、なのに、見事に渋滞にはまった。ペナンと本土を結ぶ橋は渋滞するのは当然として、ペナン島内ですでにはまってしまったのである……。そしてドライバーの女性がむちゃくちゃ運転が下手で、ブレーキを踏むたびに吐き気に襲われる。悪い人ではなさそうでよけいにつらい。どうしよう。間に合うのか。特急のチケットはオンラインで購入済だし、なによりもそれを逃すと遅い電車しかなく、乗車時間がとんでもなく伸びてしまう。なんとしても乗りたい。

 が、”なんとしても”とか言ったって我々には座ってることしかできない。外は灼熱、車は動かず、えっちらおっちら橋に入ったらさらにすごい車の列が橋全体を覆っており、絶望的な気分に。ああ、やってしまった。判断を間違えたのだ。お姉さんに電車の時刻を告げて焦ってもらう。焦るとなお運転がひどくなるのだが、もう仕方ない。がんばるわ、と言ってくれたけど、渋滞なんだから橋の上でじーっとしてるしかない。だんだん「ちょっと…厳しいかもね…」などと言い出す。あああーどうすれば!?

 あそこまで、半円を描く橋を渡っていかなければいけないんですよ。不可能では? クーラー効いてるけどだんだん車内が暑く息苦しくなる。まずい。暑くなるなるのはパニック障害の発作の前兆。これはまずい。そしてそう思った瞬間、「ここからしばらく絶対動けない」という、”思ってはいけないフレーズ”を強く思ってしまい、発作スタート。

 怖い怖い怖い、出してくれ、ここから、となり心臓が飛び出そう。脂汗が吹き出してくる。しかし絶対、出れない。どうしたらいいのか。息苦しいから窓を開けるのだが、暑くてさらに息苦しい。逃げ場がない。財布に入れていた安定剤を取り合えず飲む。効くかわからないが、飲む。慣れてる夫は「大丈夫?」とあえて軽く聞いてくれるが、もうこうなっちゃうと誰がそばにいようと関係ない。とにかくここから出たい。出してくれ今すぐに! …とはいえ、叫び出したりはしない。そんなことができるような肝っ玉があれば、パニックなんて起こさない。基本、黙って恐怖に耐え、蚊の鳴くような声で「ちょっ…」とか言ってるだけだ。それで一生懸命呼吸する。このとき水があればまだいい。口の中が空っからに乾くのだ。で、当分出れない=水も飲めないというのがパニックに拍車をかける。とりあえず水があれば、少しずつ飲んで恐怖を紛らわせることができる。しかし発作が起きる時は大体何の水分も持ってない。この日も持ってなかった。ああ、口の中が乾く。どうしよう。次水が飲めるのはいつなのか。なんていうか、全てを甘く見ていたのね自分…。

 …が、今年の自分は一味違った。というか去年、新しい認知を得たのである。あ、いや、薬が効いたのかもしれないけど。とにかく「怖い怖い怖い怖い」と呟いて数分後に、「これはすぐにおさまる」というフレーズが閃いたのだ。パニックの後なら毎回思うことである。「すぐおさまるんだよ」と。しかしことの最中には絶対思い浮かばなかったフレーズだ。これは人間の位が一個上がったんじゃないか、というくらいの大事件なのである。パニックを起こしながら「いや、でもこれはすぐ終わるから」と認知する! もちろん思ったところで突然恐怖が消えるわけではない。うっすら光がさす、程度のことである。怖いもんは怖い。出たいことには変わりない。が、思ってからしばらくさらに耐えてると、本当になんでもなくなるのだ。動悸はおさまり、口の中が勝手に潤ってきて乾きも消えてる。他の人みたいに、普通に、安心安全な気持ちで車に乗ってられるようになるのだ。ああよかった。

 それと同時に、頼りなかったドライバーのお姉ちゃんがいきなり馬力を出してくれた。業をにやしたのか、橋の後半で突然、強引に何台も車を抜き始め、そのままバタワース駅までぶっ飛ばしてくれた。「え、何、突然?」「すごい、本気を出してる」とこちらは感激。物事が好転するときってこういう感じ! と恐怖から解放された私は俄然元気になる。結局、列車には間に合って、お姉さんに深く深く礼を言う。「とにかく間に合わせなければ」という責任感で燃えてくれたようなのである。運転が下手、などと毒づいてごめんなさい。

 

バタワース駅は大混雑

ホームに人が溢れないよう、入場制限してるらしい

 すごい人だったけど、別に異常事態というわけではなくたぶん、これが普通ぽい。いつもならぎゃーぎゃーいうところだが、とにかく電車に間に合った、車から無事降りれた、ということで上機嫌だったので「いやいやいくらでも待ちますよ〜」と余裕で並ぶ。

 

 以下、次号。

こんなに書いて終わらない……すみません。