独楽ログ〜こまログ〜

45歳、女性、日本人、がひとりで毎日楽しくすごす方法を検証。

外に出るとおもしろいことにあえるものだなあ    代々木八幡篇

「鼻の通るパン屋」ルヴァン

 渋谷からNHKを抜けて富ヶ谷交差点までてくてく歩く。「腐る経済」の著者、渡邉さんが「ここに勤めたら(小麦アレルギーと思われた)鼻のぐずぐずが治った」というパン屋さん、「ルヴァン」に行くためである。

 「ルヴァン」と言えば、天然酵母パンの草分け。パン好きには超有名店だが、そういえばここのパン、食べたことなかったといまさら思って、近いうち行こうと決めていたのだ。

 

 ここの店主の甲田幹夫氏はパン焼き人であり、思想家でもある…と言っていいほど、生き方に芯のある人である。パン焼きという仕事も、彼がはじめて出会った「矛盾のない仕事」だったから(以下のインタビューから引用してます)。焼き損じたパンも、昨日のパンも、捨てない。値引きして売る。自分と他者をわけない。味よりも人のほうが大事…等々、正直、私のような汚れた人間には縁遠い店かもなあと思っていたのも事実だ。ただ、「パンを捨てない」という考えにはものすごく共感していたのだけど。

 

005. ルヴァンの甲田幹夫さん | パンラボ

 

捨てるべきか、捨てざるべきか

 私が数年勤めていたカフェは、老舗の有名店ということもあって、ものすごく厳格で完璧なおもてなしをする店だった。すごくいい材料を仕入れて、ちょっとでも不安要素があれば、どんどん廃棄する、お客様にはつねに最上のものを、という姿勢だった。

 私は客としてもその店が大好きだったから、そんなバックヤードを見て、「さすがだなあ、これが日本の理想の客商売だなあ」などと思っていたのだが、同時に、毎日大量に出るロスを見て、「もったいなさすぎる…」とも思っていた。「品切れを出すくらいなら、ロスにしたほうがいい」という考えだから、暇そうなときでもがんがん仕込む。そしてあまる。飽きが来ないようメニュー替えもしょっちゅう行う。だから切り替えのときがくると前のメニューの食材がこれまた大量にロスる。

 レストランなんかでは、あまった食材で「本日のスープ」を作るなどアレンジがきくけれど、なにしろ大きい組織なので現場の判断でメニューを作る、変えるなんて考えられない。だからロスる。どういうわけか、サンドイッチ用、トースト用のパンは角食ではなく、ともに丸、および楕円形だったため、スライスすると左右に大量に小さな切れ端が出る。それも全部ロス。使用食材(原材料も店で作ったものも)は菌検査に出し、決められた日数(だいたい2~3日。ジャムですら、7日)が過ぎたらロス。それは当たり前だけれど、つい検査に出しそびれた食材というのもあって、そういうものは念のため、すべて2日で廃棄。どれだけ火を通しても、見た目が変わらなくても、廃棄。もちろん、見た目が崩れたもの、イレギュラーなものも、がっつり廃棄。

 

 食べ物は人の命に関わるものだし、ここは夢を与える店なのだから、本当はこれほど厳格じゃないといけないのだなあと感心していた。学生時代にアルバイトした飲食店なんかは「もうここのものは食べるまい」と決心するような店ばっかりだった。していたけど、「もったいないよなあ」ともいつも思っていた。ロスの食品は従業員が持ち帰ることができるのだけど、あれもこれも使えるから、と山のような荷物を作って持ち帰るのは私だけだった。みんなが私のように意地汚くなかった、ということなのだが、それ以前にみんなだいたい、食べることにそこまで興味がない、もしくは、毎日猛烈に働いていて、持ち帰った食材であれこれ料理するなんていう余裕がそもそもないようだった。

 そんなこんなで、飲食店をやるってことは、食べ物を作ることでもあるけど、同時に同じくらい捨てることでもあるのかも? と思っていた。こんなに流行っている店でも、これだけ廃棄しているのだから、普通の店だったらもっと捨てるのかも、と…。私に、そんな仕事できるのかな?と。実際、あの厳格な店にいると、すぐ「もったいない」とか「持って帰ります」と言う私は、単なる不衛生で非厳格な、強欲人間のように思えて、いつも気恥ずかしい思いをしていた。

 

 

 そんなわけで、「決して捨てない」(これは「料理通信」2017年6月号より)「ルヴァン」のようなパン屋さんは、私には光明に思えたし、最近広島の「ドリアン」のような“捨てないパン屋”が新たな潮流になっているというのは、ちょっとした感動でもあった。そう、大企業は無理でも、個人店なら、ちゃんと安全に配慮しながらも「捨てない店」を作ることは可能なのだ。

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「いつかお店をやるために」という理由で「自分が好きな店の、裏側を見てみたい」というのが、この店に勤めた理由だった。だが、同じ飲食店でも、大きな店と小さな店ではいろんなことが違う、しかも根本が違う、ということが、ここで学んだことだった。

 

シンプルなのに斬新な玄米キッシュ

 そんな万感(?)の思いを抱えて来た。「ルヴァン」は店に入る前から、もう「捨てない」店であった。

 

大量のダンボールがたたんで置いてある。「ご自由にお持ち帰りください」だ。上のフリーボックスには、家庭の不用品をいれてください、とある。使いたい人がいるだろうから、ということだろう。片側の店頭では、エコライフ関連のフライヤーがたくさん。

店内には「昨日焼き」のパンが2割引で。その他、「捨てない」「もう一度使う」「とことん使う」「みんなで使う」のエネルギーが充満している、なんか熱気がすごい店であった。まあいわゆる「エコ&オーガニックな店」だね、と言ってもいいのだけど、なんというかこの店はそこいらのエコショップとは熱量が違う。なぜならば、あまりにもエコな店って(上記のようなことを言いながらも)、私は結構引いてしまうのだが、あまりにも徹底していて、なんの拒否感もわかなかったのである。「わかりました…そこまでのお覚悟がおありならば、わたくしもお受けいたしましょう」と、戦国時代風に受け止めてしま店であった。

 

 店内にはパンのいい香りと、いろんなものが雑然とあふれている。そのせいか妙に味の濃いパンが食べたくなり、ライ麦パン(正式名は忘れました…)と玉ねぎパイを買う。店員さんがおすすめしていた「ルバーブのパイ」は、色味全然なし、そのあまりにも地味なルックスに軽く驚く。しかし、この店は別にこれでいいのだ。と思うと、逆においしそうに見えてくるから不思議。そういえばネットで誰かが「ここの玄米キッシュにはまって一時期毎日通っていた」と書いてたな…。でも今日はないのかしら。

 

 隣にはカフェ「ル・シァレ」が併設されている。

「ル・シァレって『山小屋』という意味なんだけどね。
山小屋は、泊まりたいという人を決して拒否しちゃいけないんだよね。
拒否したら死ぬということだから。
だから、どんなに人数があふれかえっても、とにかくみんなで詰めて詰めて山小屋に泊まって。
食べ物がなかったり装備がなかったら、みんなで貸してさ、暖をとって、一夜を過ごす。

 

 

…というところからついた名前なのだそうな。なるほど…すべての人を受け入れる店。なんか深いなあ。芯があるなあ。芯がある人はなにをやっても、芯が垣間見えるなあ。

 …ということは、家に帰ってぐぐって知ったことなので、このときは、かわいらしい小屋だなあと思いながら席につく。椅子がものすごくぐらぐらしていたので、席を変える。常連さんらしき女性はすぐに去って、客は私ひとり。

 

 

 トイレに行くと、こだわりのトイレットペーパーを1巻80円で売っていて、どこまでも徹底していることを確認。ちなみにトイレのドアハンドルもぐらんぐらんで、すぐにとれてしまいそうだったが、いいのだ。この店はこれで…。

  オーダーは「玄米キッシュプレート」。さっき店で見れなかったので、気になっていたらしい。あまり深く考えず、卵と牛乳のアパレイユに野菜や玄米がちらしてあるのかなくらいに考えていたのだが、実際は違った。

 

 想像とかなり違うものが来た。玄米ぎっしり。アパレイユどころか、ただおにぎりを詰め込んだようにも見える。上にチーズ。なんかすごい。プレートにはさらにレーズンパンまでついて、わけあって糖質オフ生活を続けていた私は、糖質解除した身の上とはいえ、「なんという炭水化物量だ…」と思わずひきつつ、口にいれる。

 う、うまい! 

 想像よりもかなりうまい! 「はまって毎日買いにいく」、なるほどわかる! ごはんが妙に香ばしくて、ほんのり甘くて、これにチーズ、パイ生地が合わさると絶妙にあう。なんだこれは…。見た目も斬新だけど、味もすごいな。ちょっと感動。

 それでデザートがわりにこの甘いレーズンパンを食べるということね…ああ、こちらも、もちっとしてうまいなあ。「味より人」と言いつつ、こんなにうまいんだから素晴らしいなあ。

 

「あのー、ごはんがキッシュに入ってるって、珍しいですね」

 好奇心がおさえきれず、お姉さんに尋ねる。お客さんが他にいなかったし、誰でも受け入れる山小屋というだけあって、なんだかお姉さんも空間も、すごく話しかけやすい雰囲気なのだ。お姉さんは「そうですよね。これ、ほぼごはんですものね」と笑う。

「おいしいですねえ…」

「おいしいですよね。ちょっとドリアみたいで」

「あのー、どうしてごはんを入れようと思われたんでしょうか」

 さらに質問。いや、私には思いつかないなあ、キッシュにごはんをぎっしり詰めようってのは…。

「どうしてでしょうねえ? うち、まかないはごはんなんですよね。それがあまって入れてみようかってなったんだったかな…?? 違ったかな? まああとは、日本人だし、ごはん食べようよ、っていうのもありますよね」

「黒米とかいろんなお米が…」

「そう、雑穀いろいろいれて」

「ごはんがなんだか、すごく甘くて香ばしいんですが…」

「あ、それはね、玉ねぎと人参で炒めてるからなんですよ。ごはんだけじゃないんです」

 なるほど、そのごはんにチーズが合わさって、ドリアっぽい味になるのか。いやでもさらにパイ生地も合わさると、本当になんともすごいハーモニー。構造と素材はかなりシンプル。でも発想がとても斬新。そしてすごくうまい。これは理想の食べ物かもしれないなあ。

 しかし、これ全部食べるのは罪深いだろう、そしてこの斬新な品を夫にも食べさせたいし、と思った私は1/3残してペーパーに包み、さっき買ったパンの袋に入れて持ち帰ることにする。

 

 

⇧おいてあった「暮らしの手帖」の記事によると、オーナー甲田さんは、ふんどしをしているらしい。芯のある人は……。

 

  帰りは代々木八幡に寄って帰ることにする。神社好きの私のなかで、ここはかなりの高ポイントスポットである。神社の特徴である木々の“鬱蒼ぶり”が、とてもよいのである。中に入ると薄暗く、ひんやりとして、空気が清浄だ。

 教会が内部に宇宙を描こうとしたのなら、神社はその森を使って宇宙を表現しているのではないだろうか。勝手に思ってるだけだけど、そこがとても好き。お寺だとちょっと整然としすぎていることが多いが、神社は適度に適当で、何事もやりすぎず、自然にまかせている感じがよいのだ。

 

 

 しかも、ここにはなぜか竪穴式住居もある………。不思議だ……。

 

 すっかり体内の気が入れ替わったような気になって、帰宅。

 帰宅したとたん、夫へあげるはずのキッシュの残りを、むしゃむしゃと食べてしまう。…がまんできなかった。冷めてもやはりうまかった。

 

 翌日、買ったライ麦パンにたらこ&サワークリーム(よしながふみの漫画『きのう何食べた?』に載ってた)をつけて食べた。