土門拳記念館
午後は酒田中心部と空港の間にある土門拳記念館へ。田舎の強み、酒田市美術館もそうだったけれど、とにかく敷地が広い。駐車場から入り口までも5分くらい歩くのだ。でもそのぶん気持ちいい。こんなに広々とした気分を味わえるだけでも「体験」になる。
なかはこんな感じ。入り口近くの小スペースでは土門拳賞を受賞した北島敬三氏の作品も観ることができる。『UNTITLED RECORDS』という99年から日本全国を巡って撮られた作品たちのテーマは「遺棄されたように見える風景」だという。もう発展一筋ではない日本の現在が見えてきて、なんとも言えない気持ちになる。
メインギャラリーは広大なワンルーム。土門拳特有の、仏像のドアップ写真や街角の子供たちの景色などは、静かな迫力あり。もっとぎらぎらしてるかと思ったが、実はそうでもないのだ。静かに静かに、凄みが迫ってくる感じで。なので圧倒されて観疲れすることもない。
おもしろかったのは大女優たちと仏像のコラボシリーズ、「女優と文化財」。雑誌『婦人公論』の企画らしいが、不思議だった…。吉永小百合と深大寺釈迦倚像とか。最初、企画が持ち込まれたとき土門本人はすごく嫌がって…云々などとも読んだけれど、うーん、いまだになんの解釈もできず。でもおもしろいです。
別室では15分ほどのドキュメンタリーを観ることができる。
記念館脇の池のほとりに女性がひとり。フルートを吹いていた。曲は『ドラえもん』…。シュールすぎる…。
山形県県民の海 スパール
今回様々な土地の「行きたい場所」を探していて、地方って、だいたい立派な公立プールがあるんだなあと気づいたので、旅の裏テーマは「水泳の旅」になった。なかでもこの「山形県県民の海 スパール」はかなり期待を込めていた場所だ。
25Mが6コース。ジャグジーはただのジャグジーではなく、リラクゼーションコーナーという大きなスペースで、さまざまなスタイルでリラックスできる。別に、流れるプールがありウォータースライダー併設。なんなのだ、この豪華さは…。これが県営? 1日利用権、590円(季節・週末変動あり)。いや、あとでわかるが、この豪華さは山形に限ったことではない。どこの県もこういう施設、結構多いのだ。少ないエンターテインメントを補い県民の生活の質をあげ、ここから出て行くことのないよう、ということなのだろうか。とにかくすごい。ウォータースライダーって……??? 東京都中野区のプールが、ジャグジーなしで冬は激寒、シャンプー使用禁止、でも施設は新しくてきれい、区外民350円、というだけで感動していた身としてはこのもてなしをうまく理解できない。税金の使い道として正しいのか正直よくわからないのだが、水泳好きの自分としては、とりあえずありがたい。こういう「いいのかどうかわからないが、とりあえず今の自分にはありがたい」ということを、このマイル修行でたくさん経験することになる。
そもそも、バスや電車の公共交通機関で庄内をめぐろうと思っていたのだが一転、レンタカーを借りることにしたのは、このスパールのせいだった。どうしても行きたい。しかし地図をどれだけ拡大しても周囲になにもない。ほんっとうになにもない。酒田駅周辺や美術館にはバスも循環してるらしいのでそれで空港まで行って、空港からならいろいろあるだろうからスパールまではタクシーで(距離はわりと近い)…と計画したけれど、じゃあスパールからどうやって帰るのか、という問題が発生したのである。
田舎のタクシー事情というのがよくわからないので、どこなら待機してるのか、どこでも呼べば来てくれるのか等も不明。しかし宮古島ではタクシー不足で流しなんて絶対無理だし呼んでも無理、という経験もした。毎回、「”ここはよくわかんないから空港の観光案内所で聞こう”と思って行ってみると、案内所はあるがだーれもいない、ということも頻発した。ここもそうかもしれない…そもそも県営プールにタクシーがいるわけもなく、電話で呼ぶ地元の人がいるとも思えない。…なのでレンタカーを借りて10年ぶりに運転することにしたのである。そしてそれは正解だった。スパールは見事な山のなかにあった。そして広大だった。
えっ、まさかこんなところに? という山の中にあった。駐車場にはわずかな車があるのみ。まさか休み? 確認したけど? でもやっていた。タオルをレンタルすると、可愛いチェリー柄の明らかに家庭用のバスタオルが出てきて、可愛くて笑ってしまった。更衣室のおばあちゃんたちが楽しそうに歓談している。私を見ると「あらこんにちは〜」と笑顔で挨拶してくれた。庄内の人って人懐っこい気がする。
そしてこれまた「リゾートホテル?」とびびるほど巨大で立派なプールで30分泳ぎ、リラックスコーナーで温まる。満喫。素晴らしく気持ちいい。帰り際、奥に流れるプールが見えた。子供のころ今は亡き「としまえん」で泳いだ切りの流れるプール、どんなもんだろうと入ってみる。当たり前だけど、流れてる、流される! 結構な力でぐいぐい流されるので、脚はバタ足不要、腕だけなんとなーく伸ばしてると勝手に進んでくれて、これはなかなか得難い体験だ。楽しい。なるほど県民の海ねえ…と感心した。
「すごかった。素晴らしかったです」と受付のおばさんに言うと、「ほんと! よかった!」と嬉しそうな顔をして、「また…」と言いかけ、私が旅人なのを感じ取ったのか言い淀んだ後、「またね、ぜひ来てくださいね」と力強く言ってくれたので、私も、もう来ることはないだろう…と思いつつも「うん、来たい、ほんとに」と力強く返す。
湯野浜温泉
その近くの寺に行こうと車を走らせたが、道がどんどんうねってくるので「俺には無理」と諦めてしまった。それを今後悔している。iPhoneの電源が少なく、道や詳細が調べにくかったのが大きい。次回から必ずモバイルバッテリーを持ってこようと誓う。
かわりに日本海沿いの湯野浜温泉へ。竹屋ホテルのご厚意でお茶を飲ませていただく。目の前が砂浜。素晴らしいロケーション。その後、旅館街をのろのろの運転でうろうろする。しかしたくさんの旅館が廃業してもいて、ここも大変だったのだなあと…。
最後、ガソリンスタンドを探して(これが一苦労。どこでもそうだが、もう簡単にガソリンスタンドは見つけられない時代なのだ。”ここしかありません”とトヨタレンタカーの人にも念を押される)、無事返せた。うわー、達成感!
庄内おいしい空港って、いろいろある
飛行機を待つのに1時間半くらい。でもこの空港、なんかいろいろと楽しかった。まずこの待合コーナーが洒落ている。椅子とかテーブルとか、ライトも素敵じゃない? と思っていたら、こんなタグつき。
ただの待合コーナーがこんなに粋なのって初めてだ。おかげで楽しく作業できた。飲食店はあの平田牧場。かなり入りたかったのだが、機内で食事が出るしなあ、と断念。
保安検査後にはラウンジもあった
さらに、保安検査後に入れるラウンジが! クレジットカードの有無関係なくフリードリンク500円なのだが、なんとLINEの庄内空港ファンクラブに入会すると無料になるという情報を発見、無性に得した気分になって利用。期間限定かもしれないが…。
庄内ではくるみゆべし2個しか食べていないので、おなかは準備万端で夕食に挑む。しかしやはり、揺れながら食べるっていうのが…無理なのかも。三口くらい食べると、もう胸がいっぱいになってしまう。毎回汁物がやたらおいしく感じるのは乾燥しているからだろう。この後、食事は持って帰れるということにようやく気づき、そっちのほうがいいのかもと思い中。もうあと修行は1回残すのみだが。
というわけで、毎回楽しいが、今回はとりわけ楽しく充実した旅でありました。帰りはパニック障害の気配もなく快適。どこが修行なの、という感じで、ただの楽しい一人旅だった。